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思い立って資格を取るまでのお話(14)

保育士試験に福祉がある理由 

福祉を学ぶ理由

 保育士試験の科目には、「社会的養護」「子ども家庭福祉」「社会福祉」といった福祉的な科目がある。実はこれを苦手としている人が、割と多いらしい。私も、「子ども家庭福祉」はまだしも、「社会的養護」、「社会福祉」は9科目中最も苦手な部類に入る。
 例えば、「○○の相談窓口を設置しているのは」と出題があったとき、それが国なのか、都道府県なのか、市町村なのかが混同するし、「法令などが制定・宣言された順について正しいものを選べ」といった制度や法令関係についての出題も多い。
 私はこういった制度や仕組み、どの法律が根拠で、どの施設にどんな職員が配置されるか、などがとにかく苦手で、実は今も正確に答えられる自信がない。
 
 そもそもなんで、社会福祉なんかやらなきゃいけないのよ。福祉といえばお年寄りでしょ? 保育士と何の関係があるのよ。
 
 と、失礼極まりないことを思いながら、苦手な「社会福祉」の勉強をしていた。
 
 「社会的養護」。内容としては「子どもを『社会全体ではぐくむ』」ことと、「子どもの『最善の利益』に立つ」ことを念頭に、施設養護、施設以外の社会的養護などについて学ぶ。うん、これは子どもを取り巻く周囲の環境を学びましょう、ということでいいのかな。と思うと、学ぶ必要はあると感じた。
 「子ども家庭福祉」。これも同様。科目名に子どもとあるし(旧名でも「児童家庭福祉」で「児童」とついていたし)、子どもを取り巻く一人の大人として、ということでいいのかな。
 問題は「社会福祉」。先述のように、なぜ学ぶ必要があるのだろうか、と疑問に思っていた。
 
 保育士は保育所だけが活躍の場ではない。児童養護施設や乳児院でも配置が必要とされていたり(乳児院の場合は条件がある)、母子生活支援施設の職種でも、保育士の有資格者がなれるものがある。
 これは、保育士の役割が「子どもの成長・発達のみに関わる」だけでなく、保護者と共通の目的をもち、家庭と保育機関とが相互理解・信頼関係を樹立することも含まれているから。保育所と保護者とが足並みをそろえて、子どもを育てていこう、というイメージだ。
 このため、保護者の困りごとなどに対しても対応が必要となってくる。保護者のことを子ども家庭福祉の中で賄いきるのは難しいだろうし、また子どもを育てるのは両親だけでなく祖父母の場合だってある。子どもだけに限らず、保護者の困りごとに対して対応することで子どもの周囲を整え、成長・発達を促すととらえたとき、社会福祉の流れも知っておく必要がある、ということは、勉強を進めていく過程で何となく理解はできた。
 そもそも、保育所は「児童福祉施設」。福祉の中に位置するため、社会福祉についてもその流れを理解しておく必要がある、ということ。また「社会福祉」の中では、相談援助についても学ぶ(これ自体は、私は好きなところ)。このことが、保育士は子どもだけでなく大人(保護者)の援助(★)も担うことを裏づけていると、私は思う。
 
(★) 保育士だけが最後まで援助の役割を担う必要ではなく、必要であれば他の専門機関(医療、相談先など)につなぐことも、「保育士ができる援助」のひとつ。そのためにはどんな支援先、つながり先があるか把握しておく必要があって、それは子どもだけに特化していればいい、とは限らない。その意味で、大きな流れとして「社会福祉」もしっかり学ぶ必要があるのだとも思った。

現役保育士からのアドバイス

 別件でオンライン会議をしていた。相手は私を含めて3人のママ友同士で、このうちママ友Aさんが、めいっこさん共々保育士。今ではめいっこさんと仕事のことについてよく話し合う仲だそうだ。
 会議そのものは終わり、雑談タイムになった。
「○○ちゃん(めいっこさん。ママ友の集まりにも来てくれたことがある)、お仕事慣れてきたところ?」
 ママ友Bさんが尋ねると、
「うん、がんばってるよ~。なんかね、もっと勉強したい! って言い始めてん」
とAさん。その顔はうれしそうだ。住まいも近所なので、お互いが休みといっては話題は仕事のことばかりだと言う。
 このAさんには、個人的に「実は保育士の勉強をしてて」と打ち明けていた。ふと、
「ロコちゃんも、今、一生懸命がんばってるよね」
と話題を振られた。
「え? うん、ですね(笑)」
と、笑って返した。
「えっ、そうなの? みんなすごいなぁ」
と、Bさん。Bさんも、他の仲間の人たちと集まっての勉強会に参加しているとの報告があった(保育士ではない)。
「ロコちゃん、言っちゃってもいい? 嫌なら、このまま秘密にしておくよ?」
 Aさんに促されて、別に秘密にするものでもないしと、
「じゃあ、合格したらちゃんと改めて報告するので、今はBさんも秘密にしておいてくださいね?」
と言って、
「実はね、Aさんには現役ということもあって相談していたんだけど、保育士の勉強をしていて」
と、打ち明けた。
 この場にはいなかったが、他のママも、改めて学校に通ったりしている(た)人が何人か。時期が時期だけにオンライン授業もあるようだけど、同世代の子どもがいて、それで学校の課題もこなして、なかなかすごいと思う。私は学校に通うという方法ではなく自学でだけど、同じような目標に向かっている仲間がいると知ると、心強い。私たちの年齢になってもいつでも学ぶことができる! と裏づけ・後押しされているような気もちになった。
「勉強、どう? 難しくない?」
 Aさんに尋ねられたので、
「難しいですね~。実践系はいいのだけど、私、人名と功績とかを結びつけるのが苦手で。あと、福祉系」
と答えると、
「あ~、福祉はねぇ。みんな難しいって言うわぁ」
 やっぱりそうなんだと思っていると、Aさんが続ける。
「私の周りでも保育士試験受けてる人いるけど、みんな『福祉があかんねん』って言ってて、実際落としてるみたいやわ。でも、私が接してきて『この人やるな!』って思う保育士さんは、だいたい福祉の部分もしっかり勉強してる人。福祉のことを考えずにいたら、それはただの『子ども好き』やもん。悪い言い方をすれば『子どもがいる人なら当たり前にできるようなこと』を、わざわざ資格にして試験が必要にしてる意味って、何やと思う? 子ども好きと保育士とのちがいは、そこやと思う」

 保育士は児童福祉法に定められた独占名称資格。保育士と名乗ることができるのは、その資格をもった者だけが許される。その資格の名に恥じないよう、日々の研鑽と責任が求められる、とも言えるだろう。
 私が取ろうとしている資格の重みを改めて感じた。
「でも本当に、がんばってね! そしてね、がんばって覚えたことは、ずっと忘れないから。私も、日ごろのことはすぐ忘れるのに、今でもまだピアジェとかエリクソンとかモンテッソーリとか、覚えてるもん」
 ここについては自分が体験してみないことにはどうとも言えないなと思ったが、現役で保育士として働いている人の言葉は、やはり重みがちがう。

スーパービジョン

 この福祉科目の中で、「スーパービジョン」なる用語が出てきた。熟練の援助専門家(スーパーバイザー)が経験の浅い援助者(スーパーバイジー)に対して専門的な能力を発揮できるよう指導や援助をする過程のこと。「管理的機能」「教育的機能」「支持的機能」「評価的機能」とあり、ざっくり言うと「スーパーバイジーの周囲を整えて、組織の一員としての意欲や精神的に支えること、成長を効果的に促すこと、そのために必要な知識や技術の提供」といったところだろう。スーパービジョンの種類にもいくつかあるが、振り返ってみて思うのは、認可外保育所の園長が、たびたび私との面談をしていた、ということ。
 私はそこはちょっと意固地な部分があり、「面談? んなの、必要ないんですけど」と思っていたこともある。
「こうやって個人的に面談してるのなんて、私だけですよね?」
と思って尋ねると、
「ううん、みんなこうして面談してるのよ。何もロコさんだけじゃないわ」
とのこと。でも他の人が面談しているような様子は私の勤務時間内では見られなかったこともあって、
「あ~、また私の足りないところでも指摘するんだろうな。はいはい、どうせ私には(保育士の)資格はありませんよ~だ。でも体当たりでなら、資格の有無なんて関係ありませんよね?」
と、天邪鬼な思考でいる部分もあった。
 実際はどうだったかというと、足りない部分を指摘されたことは、実はない。その代わり、先述のように親との関係についていろいろと相談に乗っていただいた。気がついたらそうなっていた感じ。
 ここが、彼女(と、あえて書かせていただく)のうまさだったんだろうなと、今では思う。この場合でいうと私(スーパーバイジー)の周囲を整えて、より働きやすいようにと考えてのことだったのだとしたら、「相談援助の技術」をしっかり取り入れて実践していたんだなということになる。
 この相談援助の技術は、「社会福祉」で登場する。
 
 とすると、認可外保育所の園長は、Aさんが言う「福祉の部分をしっかり勉強している人」ということになるだろう。
 何度も言っているかもしれないが、私は、制度や法令、それらが制定された年を覚えるのがニガテだったり、人名と功績や理論を結びつけるのもニガテだ。けれどこの相談援助の部分については、相談を受けつけてから終結に至るまでの流れについて、改めておもしろい! と感じ、福祉系科目の中でも好きな部分にあたる。
 こういった流れを改めて学びなおすことで、普段の業務の中ではどうだろう? という振り返りにもつながった。
 
 「社会的養護」、「子ども家庭福祉」、「社会福祉」と福祉関係の3科目が終わって、上下巻にわかれたテキストの上巻を終わらせることができた。とにかく制度やら何やらが多岐にわたっているので複雑で覚えるのが苦痛ではあるけれど、相談援助技術はおもしろそうと思ったり、「自分の身の回りにある『子どもの育ちに関わる場所や制度』」を知るのが、この3つの科目の醍醐味だと思う。このころから、「『子どもを援助』と言うから子どものみの援助でいい」のではなく、「子どもを軸として『その周囲を整えること』が援助だ」と、改めて強く思うようにもなった。
 一次試験の合格がわかった2022年6月時点でも、福祉関係科目についてはまだ苦手意識を拭いきることはできない。でも少しでも「仲良し」になろうと、おもしろそうだと思うところを見つけて勉強を進めていた。

現役さんからのアドバイスは、本当に心強い!


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