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思い立って資格を取るまでのお話(31)
告白、周囲の反応
周囲の反応
保育士と名乗ることができるのは都道府県知事へ登録手続きをしてからだから、今の私は、「保育士試験に合格した者」だと認識している。この後保育士と名乗って仕事をするつもりでいるので、私は一刻も早くと、通知を受け取った9日のうちに、ハガキに書かれていたとおりに保育士登録の手引きを取り寄せることにした。
そのまま、各方面へ報告をする。まず、「昨年春の『とあること』は、保育士資格のことだった」ことを、某SNSへ。合格に至るまでのざっくりとした流れ。やはり、反響は大きい。
私も試験会場で感じた、「いくつになっても、どんな環境にあっても学ぶことができる」といったことを、おこがましいかもはしれないけれど皆さんにお伝えするという役割は、ある程度は果たせたのかもしれない。
次に、特にお世話になった人への、個別の連絡。精神保健福祉士の友人、ママ友Aさん、中学時代からの友人。途中で、夫婦共通の友人から。この友人にも、個別で「夏か、遅くても冬までには報告できると思う」と言ってあった。先に別の方法でのご報告を目撃して、リアクションを個別でくれた形になる。
そしてもう一人、大切な人。認可外託児所の、園長。今は退いているので「元」がつくが、この園長にも報告をしなければならない。何しろ、私がいちばん理想としているのが、彼女なのだから。
この園長には、メールなどではなく、手紙を書こうと決めていた。個人的にメールのほうが入力速度もまあまああるし、何度も書いたり消したりができるのだけど、そういった連絡にも、園長は丁寧に手紙やハガキで返してくれる。
やはり、「丁寧」「心をこめる」は、メールよりも手紙のほうが優勢だと思う。なので、こちらは2022年8月現在、少し日付を見込んで残暑見舞いも兼ねて「執筆」中。
最後に。身近にいながら今の今までずっと知らせずにいた、アイツへの報告だ。
旦那の反応
4月に特にこだわるような理由がないにも関わらず(たぶん「学習会」か何かとは言った)土日を連続で丸一日ほしいと言ってみたり、7月のある日曜日も朝から晩までほしいと言ってみたり。旦那にとっては不可解な行動だっただろう。これも、私が「保育士の勉強をしているから!」と宣言せずにいたため。逆にいえば、「主婦だって用事ぐらい入れるわい!」「子どもを見ているときになんで『私も一緒にいる』必要があるわけ?」と思ってしまうところ。これらの齟齬も、すべて「保育士試験に合格したら、たぶん解消される!」と思って、トンチンカンな発言にカチンときながらも、ある程度は我慢した。
この種明かしを、ついにするときがきた。
通知を受け取った9日ではなく、翌日。
「ところで、ちょいとご報告があります」
と言って、通知のハガキを閉じた状態で旦那に手渡した。我が家のルールで、たとえ家族全員宛て、代表で旦那の名前が書いてあるだけだとわかっても、「手紙や届いた荷物は宛名に名前がある人がいいと言うまで、他の人は開けないこと」というのがある。これは、子どもたちが何でも勝手に開けてしまわないためのルール。私も旦那も、もちろんこのルールを守っている。ので、
「開いて見ていいよ」
とOKを出した。
ハガキを開く旦那。しばらく眺めて、
「・・・そういうこと!」
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どうやら頭の中で、4月と7月の不自然な予定調整の件がつながったらしい。
「試験だったからか!」
「ま、そういうことです。4月に筆記、7月に実技だったのでね。じゃあ、もうひとつついでに・・・」
と、私は筆記試験のみの合格通知も見せる。これには、今回の試験を受けて合格した科目には、「合」の字が記載されている。全科目を一度で合格できたので、私の筆記試験の通知には、すべてに「合」の字がある。
「これで、どういう意味でしょう?」
しばらく悩む旦那。
「ヒント、保育士は科目ごとの合格も認められていて、3年間有効です」
私もいちいち回りくどく言わなくていいのにと自分で呆れつつ、でも、この1年のがんばりをほめてほしくて、それを旦那自身で気づいてほしくて、言う。結局わからなかったので、
「これだけのことを、昨年からコッソリ、コツコツやって合格できたの! っていうこと」
素直に言うと、私はほめてほしかった。過去から今に至るまで、親にほめてもらった覚えがない。本当に心の底からほめてほしい。私の中に小さいころからずっとある願望だ。旦那にもほめてほしくて、こんな言い方をした。
そう、この1年間、思うようにテキストが買えなかったり、子どもたちは休みになったり、だから思うように勉強が進まなかったり、福祉関係の難しさに手を焼いたり爆発しそうになったりで、本当に大変だったよ。でも、私はがんばったんだよ。
結果、旦那には直接ほめてもらうことはなかった。それどころか、
「えっ、じゃあ何? ○○(子ども)たちが小学校ぐらいになったら、保育園とかで働くつもり?」
・・・オイ。あたしの仕事は、何だよ。
もしかしたら、いずれその方向も考えなければいけないかもしれない。が、今のところは、「今の業務に保育士資格を生かす」ことしか考えていない。
私の仕事は何だ? フリースクールに携わっている、ということだ!
いや、これに関しては私も昨年春まで、「支援の対象は地域の子育て家庭」があることは、知らなかった。子どもに特化した資格だと思われても、仕方がない。保育所保育指針にも
一人一人の保護者の状況やその意向を理解、受容し、それぞれの親子関係や家庭生活等に配慮しながら、様々な機会をとらえ、適切に援助すること。
とあるように、保育所という場所は、保護者の援助の役割も担っている。ということは、保育所で働く職員にも、こういった要領が求められることになる。
保育士が携わるのは、子どもだけでなく、その周囲も対象。そう気づいたときに、今の私の仕事にうってつけだと思って、保育士の資格を取ることを考えたんだ。
あくまで私の業務はフリースクールのスタッフ。この自負が、旦那に
「えっ、何で保育士を取ったと思う? 保育士って、子どもだけじゃなくて保護者やその周囲も対象なんだよ」
と返したことで、より強固なものになった。そんな気がする。
これでやっと、自分の手元に置いておいた各テキストのカバーをはずせる! 各資料の置き場所を気にする必要がなくなる! 本にカバーがかかってると、テキストを見て確認したいことが出てきたときに、上巻を取りたかったのに下巻を手にしてたとか、不便だったんだもん・・・。
両親の反応
感染対策を万全に行ったうえで、2022年の夏は私の実家に何年ぶりかで帰省することができた。下の子にとっては初めての私の実家だ。その滞在中、子どもも旦那も揃って寝たのを見計らって、私は薄明るいリビングで手帳に何かを書いているフリをして、母が来るのを待った。リビングと私たちが寝た部屋は隣同士で、仕切りも兼ねた4枚の扉を端に寄せて広く開けておけば一間続きのようになる。この扉がスモークがかかっているとはいえ、ガラス戸なので光はダダ漏れ。キッチンの小さな電気だけがついている。
母がやってきて、いつもの雑談のあと、
「そうだ、ひとつご報告があって」
と、部屋でカバンをゴソゴソ漁って、合格通知を見せた。
「え~っ、保育士取ったんだ! 何、保育園で働くの?」
ああ、やっぱりそうなるか。
いつもなら早々に部屋にこもって気がついたら寝ている(らしい)父も、用があったらしくリビングに来た。父にも見せると、
「おっ! 保育園で働くの?」
う~ん、ここでもか。
保育士が活躍する場は、何も保育園だけではない。私も勉強をするまではその事実を知らなかったのだから人のことは言えないけれど、活躍の場は児童養護施設や乳児院、母子支援員も保育士資格を有する人、と指定があったりする。保育士イコール保育園、という構図ができあがってしまっている。ここは、もっと保育士資格を持っている人たちが、声を大にして「保育士イコール保育園じゃないんだぞ!」って言っていいと思う。
私もその思いがあるので、
「保育士が働けるのは保育園だけじゃないよ。子どもももちろんだけど、保護者の相談とかも受け付けることができるんだよ」
私が「相談、援助」のうち「相談」だけを言ったからか、
「何、お前にそんなことができんの? あんなに走り回ってた2人(私の子ども)にひぃひぃ言いながら、『うちもこんなんだけど、大丈夫ですよ~』って」
と笑って言う父。そこは私も笑って乗り切ったが、相変わらずの父の馬鹿にしたような言い方に、カチンときた。
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正直、私は保育士の資格を、「あなたたちが思う私じゃなくて、私は私として生きるため」の切り札と考えている部分もある。私がその壁を越えて乗り越えようとしても、いつも難癖をつけてさらに壁を高くして乗り越えさせなかった、つまり、いつまでも自分たちの思う私に仕立てあげようとするその姿勢に、ケリをつけるために。いつまでも上から見ていてばかりだった両親に、今度は私のほうが高いところから見下ろすために。
そう思ったから資格を取ったことを報告したのに、結局は馬鹿にされる要因になってしまった。きょうだいもそれぞれが資格職で、その資格を生かした仕事をしている。最初にとった資格からさらに関連づけて他の資格を取っていることは知っていて、でもいちいち両親に報告していないらしいのは、こんな結末があると想像していたからだろう。
この人たちには黙っておいたほうがよかったかもしれない。