初めての東京(神保町)
初めて上京した。
古本屋街に行くことにした。
「東京の古本屋はスゴイ」と同級生が言っていた。
「ハガ書店は必見」とも言っていた。
お金がもったいないので、ホテルから歩いた。
ケイタイはない時代である。
お店で道を尋ねながら歩いた。
「ジンボウチョウ」と呼ばれていることが分かった。
私の頭の中で「陣防調」と思い込んだ。
国の中枢が東京にあるのだから、陣を守る景色になっていると確信していた。
どれくらい歩き続けただろうか。
「ジンボウチョウは?」と尋ねたら、
「ここだよ」と返ってきた。
予想に反し、古本屋街だった。
一軒の古本屋に入った。
書庫の匂いがした。
本の数が多い!
眩暈を起こした。
勇気を奮い起こし、店主のおじさんに尋ねた。
「ハガ書店はここですか?」
おじさんは不快の塊の顔に変わった。
他のお客の手前、怒りを抑え、略地図をくれた。
お礼を述べ、「ハガ書店」に向かった。
教えられた本屋の扉を開けた。
並んでいる本を見て衝撃を受けた。
エロ本の山である。
私の田舎では、エロ本はご法度である。
堂々と見ている人がいる。
「見たい」気持ちと「ここにはいられない」不安が複雑に絡まった。
ドキドキしながら店を出た。
看板には「芳賀書店」と書いてあった。
田舎で想像していた「葉雅書店」ではなかった。
そして「神保町」であることも知った。
恥ずかしかった。
田舎に戻っても「神保町」と「芳賀書店」の話はしなかった。