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SCMの成功要因は三者鼎立

[要旨]

タビオ創業者の越智直正さんが、SCMを構築したとき、協力工場の利益を優先し、仕入れを値切ることはしませんでした。しかし、このような越智さんの姿勢に対し、高い技術力を持った会社がSCMに参加するようになり、品質の高い製品を提供することができるようになりました。こうしてSCMの競争力を高めることにより、同社の業績も向上していったようです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、越智直正さんのご著書、「靴下バカ一代-奇天烈経営者の人生訓」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、越智さんが、タビオにSCMを導入して成功した要因は、協力工場がよい製品を顧客に提供しようという志を共有してくれたからであり、その志を共有してもらうための信頼関係が土台となったことから、SCMを成功させるには、システムの開発よりも、協力工場の経営者の方たちをまとめる働きかけの方が大切ということを説明しました。これに続いて、越智さんは、SCM構築にあたって、協力工場から信頼を得ることができた要因は、協力工場の利益を優先したことであると述べておられます。

「商売で大事なのは、自分より相手の利益を優先することです。僕は創業以来、仕入れを値切ったことは一度もない。創業して十数年は、売上規模が小さかったこともあり、いつも資金繰りが逼迫していました。あらゆるところからお金を借りて、毎日を何とか乗り切るという日々だったけれど、値切ることは絶対にしなかったし、支払い期日も守り通しました。品質にこだわった商品を作っていくには、工場と信頼関係を築くことが最も大切だからです。おかげで創業して5~6年ほど経った頃から、『ダン(タビオの旧社名)は、技術力があれば、それだけで評価してくれるし、コスト面でも工場を大切にしてくれるらしい』という評判が広がり、技術力があって取引をしたいという工場が増えていったのです。

僕が生産・販売管理システムを構築できたのは、ひとえに三者鼎立(さんしゃていりつ)の商売を追求し続けてきたからだと思います。売れ残り、すなわち、不良在庫ををどうしたらなくせるか、これがシステムの根底にある考え方です。お客様にとって売れ残りは価値がなく、小売りや卸、工場の経営を圧迫します。ですから、工場、卸、小売りのあらゆる段階で無駄を省いていくことが、効率的な経営、ひいてはお客様に最適な価格で提供することにつながると考えてきました。小売りが強い立場を利用して、卸やメーカーに無理難題を押し付けるケースをよく聞きますが、そんな商売は長くは続きません。工場、卸、小売りが企業の枠を超えて協力し合ってこそ、強い競争力を発揮し続けていくことができるのです」(171ページ)

この、越智さんの、「自分より相手の利益を優先すること」によって、競争力の高いサプライチェーンを構築することができるというご指摘は、多くの方が理解すると思います。ところが、これも越智さんがご指摘しておられるように、「小売りが強い立場を利用して、卸やメーカーに無理難題を押し付ける」という事例は珍しくありません。では、なぜ、そのようなことが行われるのかというと、それは、SCMのリーダーが、「三者鼎立」の考え方をしないからでしょう。すなわち、SCMは、複数の会社が集まって実践される組織活動であり、単に、リーダーだけが得をする活動なのであれば、その他の会社がSCMに加わる意味はないということになります。

一方、越智さんは、SCMに参加する協力工場を評価し、また、確実に利益を得ることができる条件を維持したことから、質の高い製品を供給することができ、それが顧客からも評価され、さらによい製品を供給できるSCMとすることができるという、好循環をつくることができたのでしょう。もちろん、これを実践することは、口で言うほど簡単ではありません。だからこそ、SCMが成功する要因は、リーダーとなる会社のリーダーシップの優劣で決まると言えます。これは、SCMは、単に、システムを導入しさえすればよいということの裏返しでもあります。そして、SCMはシステムを導入しさえすればうまくいくという、誤った考え方をする会社は、SCMの構築に失敗してしまうことになるでしょう。

2023/11/6 No.2518

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