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おいしいから売れるとは限らない

[要旨]

サイゼリヤの元社長の、堀埜一成さんによれば、例えば、そば粉よりも小麦粉の配分が多いような立ち食いそばチェーンの方が、そば粉10割の手打ちそばの個人店より、はるかに世の中に受け入れられていますが、それは、そば粉だから、手打ちだから、おいしいから選ばれているのではなく、いつでもどこでも同じ味を安く味わえる安心感の方が、多くの人にとってお店選びの基準になっているからだということです。

[本文]

今回も、前回に引き続き、サイゼリヤの元社長の堀埜一成さんのご著書、「サイゼリヤ元社長が教える年間客数2億人の経営術」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、堀埜さんによれば、サイゼリヤは「当たり前品質」を提供することに徹しており、その理由は、ひとつの店でしか出せないような際立った特徴を持つ商品は、多くの店舗で安定的に提供することは困難であり、かえってマイナスになってしまうので、味のピークをあえて落として、幅を広げる工夫が必要だからだということについて説明しました。

これに続いて、堀埜さんは、ハンバーガー店最大手のマクドナルドのハンバーガーは、必ずしも味のよさが評価されているわけではないということについて述べて述べておられます。「サイゼリヤは、『おいしいから、これ食べて』が基本で、商品軸の会社だという話はすでに何度かしましたが、最大手のマクドナルドのハンバーガーは、決しておいしいから選ばれているわけではないのです。世の中には、もっと肉厚で食べ応えのあるハンバーガーが山ほどあります。

野菜もシャキシャキで、チーズもとろりと濃厚で、バンズの触感も楽しめるようなハンバーガーを、みなさんも食べたことがあるはずです。にもかかわらず、世界でいちばん売れているのは、マクドナルドのハンバーガーです。これは疑いようのない事実です。味にうるさいと言われている日本でも事情はまったく同じで、例えば、そば粉よりも小麦粉の配分が多いような立ち食いそばチェーンの方が、そば粉10割の手打ちそばの個人店より、はるかに世の中に受け入れられています。

そば粉だから、手打ちだから、おいしいから選ばれているのではないのです。いつでもどこでも同じ味を安く味わえる安心感の方が、多くの人にとってお店選びの基準になっていることは明らかです。では、失礼ながら「おいしいから」という理由で選ばれているわけではないマクドナルドのハンバーガーが売れる秘密はどこにあるのか。私もいろいろ研究してみたのですが、例えば、あのサイズ。どこから食べても、一口目で必ずピクルスがちょっと口に入るようになっている。

そういう大きさの比率になっているのです。さらに、バンズに粘りがないから、咀嚼すると、肉と一緒になくなる。だから、ハンバーガーを食べた、という印象になるのです。バンズにもっと歯応えがあると、肉が先になくなり、パンだけが最後に残るため、パンを食べたという感覚が強すぎて、肉の印象が残りにくい。そういう細かなところまで計算され尽くしているわけです。定番商品の背後には、そういう細かな、ビックリするような仕掛けが施されているのです」

マクドナルドのハンバーガーや、立ち食いそば店のそばが最も売れているということについて、その理由はほとんどの方がわかっておられると思います。すなわち、ハンバーガーやそばの競争力は、味だけではないのです。それについては、これも言及するまでもなく、価格、商品を提供されるまでの所要時間、立地なども重要な要素です。ところが、例えば、新たに飲食店を開業しようとする方の中には、競争力を高めようとするときに、「おいしい料理をつくれば顧客から支持される」としか考えない人も少なくありません。

では、どうすれば競争力の高い商品を生み出すことができるのかというと、それも難しいことも事実ですが、基本的には、マーケティングの4Pから考えてみることが重要だと思っています。マーケティングの4Pは、米国の経営学者のマッカーシーが提唱した考え方です。具体的には、製品(Product)に関する活動、価格(Price)に関する活動、流通(Place)に関する活動、販売促進(Promotion)に関する活動の、4つの活動ごとに最適の活動を選択し、それを組み合わせてマーケティング活動を行うことが大切という考え方です。

マクドナルドで言えば、製品はそこそこのおいしさ、価格は低め、流通は駅前などの便利な場所、販売促進はTVCMの活用といった組み合わせで、味のよさ以外の面で商品の競争力を高めているということは、すでに多くの方がご理解されている通りです。むしろ、現在の経営環境では、味はよくて(性能はよくて)価格も安いことは当たり前という時代です。すなわち、流通方法や販売促進の要素の比重が高まってきていると考えることができます。したがって、中小企業においても、自社製品の競争力に関し、性能だけでなく、より多面的に検討することで、現状を打開できる可能性があると私は考えています。

2024/12/2 No.2910

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