『建設業』ではなく『サービス業』
[要旨]
阪神佐藤興産の社長の佐藤さんは、新たな顧客を開拓していくなかで、顧客との関係を強化し、また、相手に評価される提案をしたりするということが、新たな受注を得るためには重要であるということを実感しました。そして、このような経験から、佐藤さんは、自社を、建設業ではなく、サービス業と捉えるようになったそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、佐藤さんは、下請を脱して元請になるために、多くの会社を訪問し、小さな案件を受注しましたが、このようなことを繰り返して行くうちに、相手との信頼関係が深まり、大規模な工事の情報も入るようになったということを説明しました。これに続いて、佐藤さんは、顧客との関係構築が重要と感じるようになったということをご説明しておられます。
「私の新規開拓と並行して、社内では、営業体制の整備も行いました。具体的には、本社営業部、介護施設営業部、プラント工事部の3部門に分けた。このうち、本社営業部で担当するマンションやビルの大規模施設改修工事では、急ぎの工事ではないからと、お客様が大規模工事を1~2年遅らせてもいいと思ってしまうこともあります。一方、介護施設営業部が担当する介護施設の改修工事では、いよいよ切羽詰まって、『どうにかしなくて』という段階で依頼されるケースもあります。寝たきりの高齢者がたくさんおられる建物を、その状態で工事を進めなければならないのです。
入居されている高齢者や障がい者やその家族などにも、細心の注意を払って対応します。それが我が社の使命であると考えて、協力会社と一緒に、気を引き締めて直しています。介護施設については、私が、新規開拓で集中的に取り組み、ようやく花が咲き、実ってきた分野です。一般に、塗装・改修工事では、完成した姿が目に見えるのが大きな特徴ですが、それが介護施設にも生かされています。施設関係者はもちろん、入居されている方にも、『キレイになった』、『見違えるようだ』といった評価をいただける。(中略)
今後も高齢者は増え、介護施設も増え、そして大規模改修の時期を迎えますから、当社にとっては大きな成長分野の1つです。また、プラント工事部も、介護施設部と同様、今後、より拡大できる分野です。プラントというと、大企業の工場もありますが、中小の設備機器を新規に入れ直すと、その箱である工場の刷新も必要になってきます。すると、継続的な修繕が求められるようになる。当社にとっても、リピートいただけるお客様になるわけです。
このプラント分野は、当社と同規模のライバル他社が営業をかけようとしても、なかなか一筋縄ではいかない面があります。というのも、工場自体が1つの『村・集落』なのです。いったん、業者として契約できれば、いろいろな修繕の問い合わせも来ますが、新たな業績はなかなか入りづらい事情があります。ゼネコンのように、ブランド力で勝負できない会社にとって重要なのは、情報収集力。工場長やラインの担当責任者などと、どれだけ親密になり、改修や塗装の情報が得られるか、また、当社側がかゆいところに手が届くような提案を提供できるかにかかっています。
特に、お客様の工場の製造ラインに詳しくなれば、使ってはいけない材料や、そのラインに最適な材料の提案ができるので、専門的な情報交換をしやすいもの。その意味で、いったん、懐に飛び込むことができれば、つきあいが長くなる傾向があります。現場での施工工事はもちろん重要ですが、このように、会社の組織体制として営業に注力していったことも、業績が安定してきた理由です。工事業や建設・リフォーム業という括りではなく、自社を『サービス業』として捉え始めたのです」
この佐藤さんの気づきは、「製造業のサービス化」と言われています。(阪神佐藤興産は建設業ですが、製造業のサービス化は建設業にもあてはまると思いますので、このまま製造業のサービス化として説明していきます)これは、製造業の製品の価値は、かつては、製品そのものの比重が高かったのですが、現在は、製品から得られる便益(ベネフィット)の比重が高まりつつあるということです。
阪神佐藤興産の事例では、介護施設の改修工事では、「入居されている高齢者や障がい者やその家族などにも、細心の注意を払って対応」できることや、工場の改修工事では、「かゆいところに手が届くような提案を提供できる」ことなどが、顧客からの評価の重要な割合を占めています。別の会社の例では、建設機械を製造している、コマツがよい参考になると思います。同社の製造した建設機械には、GPSと通信システムが取り付けてあり、同社が通信衛星を通してその機械の情報を集め、稼動時間、稼動時間帯、燃料残量などをユーザーに還元することなどによって、顧客の管理業務の負担を減らすというサービスを提供しています。
このような対応については、多くの製造業の経営者の方が重要性を認識していると思いますが、「当社はサービス業に変わる」と宣言したり、それに対応して組織的な取組を行っている会社は少ないと思います。それは、そのようなサービスを提供する仕組みには労力がかかったり、また、一朝一夕では実現しなかったりという理由があるからでしょう。しかし、これからも製造業のサービス化は進展していく中にあって、自社製品の競争力を維持したり、高めたりするためには、中小企業であっても、このような取り組みは必須となるでしょう。
2023/12/13 No.2555
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