経営改善の基本は単品管理の徹底
[要旨]
単品管理など、会社の財務情報を収集する仕組みは、上場会社でも行われていないことがあります。そのことは、事業の改善の妨げになるものの、その仕組みを作ることは、社内の抵抗が大きかったり、多大な労力がかかり、なかなか実践されません。しかし、その壁を乗り越えることによって、会社の競争力を高めることができます。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営共創基盤CEOの冨山和彦さんのご著書、「IGPI流経営分析のリアル・ノウハウ」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。前回は、単品管理が行われていない会社は多いが、そのような会社では、原価の把握が不正確なために、もうからない商品を販売し続けてしまい、収益の改善が進みにくくなることがあるということを説明しました。それに続いて、冨山さんは、単品管理が事業の改善の鍵であると述べておられます。
「経営改善の基本は、単品管理を徹底することでもある。逆に言うと、それくらい単品管理ができていない会社が多いということでもある。上場している大手メーカーでさえ、できていないことがある。組織が巨大すぎて、原価を追跡することが困難なケースが実際にあるのだ。例えば、本社は日本、工場は中国、市場は北米というグローバルな企業で、工場も販売会社も別会社、仕入は現地、部品の一部は日本から輸出、という事業構造はよくある。
そして、本社で単品管理をするのだが、ある商品の原価を知りたいといったときに、まとめてドンと伝票が上がってくるので、本社でもよくわからない。(中略)社内の関係部署や、海外の別会社に、『単品管理をしたいから、情報提供してほしい』とでも言おうものなら、『どうしてそんなことをする必要があるのか』、『忙しいんだよ、こっちは』と、みんなから煙たがられること必至である。だた、面倒くさがって放置しておけば、本当はどれがもうかっていて、どれがあまりもうかっていないのか、よくわからないまま、みんな勘で動いていることになる。
しかし、単品管理ですべてを統一するとなると、実は、マネジメントの変革にもつながる。しかし、丸見えになること、現場側で一時的とはいえ、膨大な作業が発生することなど、推進役は、嫌われ者になることが、目に見えている。そのため、社内の人間でこれを自分からやろうという人はなかなか現れない。かといって、外部のコンサルタントが、いくら単品管理の利点をアピールしたとしても、決断・行動するのは内部の人間なので、なかなか着手されないのである」(182ページ)
私も、これまで、業績が低迷している会社の事業改善の支援をしようとしたとき、業績が低迷している原因を探ろうとしても、財務情報が不足して、改善点を見つけることが難しいという経験を、何度もしてきました。そして、これは、本旨からはずれますが、細かな財務情報がない会社は、銀行から見ても、融資をするにあたってのよい判断材料を見つけることが難しくなり、融資の承認を得にくくなります。話を戻して、財務情報が乏しくなってしまう要因は、会社の黎明期は、事業を軌道に乗せるために大きな労力がかかるので、財務情報を収集するための仕組みづくりに、手が回らなかったということが考えられます。
もうひとつは、経営者自身が、自分のやってみたい事業を営むことだけに関心が向いてしまい、財務情報の収集に目が向かないということも考えることができます。しかし、21世紀は、わずかな差が大きく業績に影響する時代です。だからこそ、自社の業況を、迅速、かつ、正確に把握することは、ますます重要になっています。そして、冨山さんも述べておられるように、単品管理はマネジメントの変革になります。
したがって、事業を起こすときに、正確な財務情報を得る仕組みも併せて構築することは、一見すると、多大な労力がかかり、遠回りになるように感じられるかもしれません。でも、しっかりとした仕組みを作っていれば、誤った経営判断を避けることができるようになるので、会社の競争力を高めることが可能になります。それにもかかわらず、21世紀になっても勘と経験で勝負を続けていては、正に、時代遅れとなり、競争力が低い状態から抜け出すことが困難になるのではないでしょうか?
2022/9/26 No.2112