従業員の育成に特効薬はない
[要旨]
石坂産業は、新たな管理システムで、社内のあらゆる情報を把握できるようになりましたが、最初は、従業員たちは、その情報に関心を持ちませんでした。そこで、社長は、従業員たちに、時間をかけて、目標管理を行わせ、社内の情報の意味を理解させていったところ、従業員たちは情報を活用して能動的な活動を行うようになっていきました。
[本文]
今回も、前回に引き続き、石坂産業の社長の石坂典子さんのご著書、「五感経営-産廃会社の娘、逆転を語る」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、石坂さんが、「廃棄物の受け入れ状況に加えて、会計管理や勤怠管理、トラブルの発生状況まで、会社で起きたことのすべてを把握できるシステム」を自前で構築したということをお伝えしました。そこで、石坂さんは、そのシステムで得られた情報を活用しようとしたところ、従業員の方たちは、会社の情報に、あまり関心を持たなかったそうです。
というのは、従業員の方たちは、自分たちの担当分している「作業」にしか、関心がなかったからのようです。そこで、石坂さんは、従業員の方たちに活動計画を立ててもらい、さらに、それに対する進捗状況を報告してもらうようにしたそうです。「彼らが書いたノートをチェックすると、『量』は、最初からきちんと意識していることが読み取れました。『搬入された破棄物は、合計●●立法メートルでした』といった具合です。一方で、『売上』への言及は、ほとんどありませんでした。しかし、搬入された廃棄物の『量』を把握するだけでは、『売上』は分かりません。
なぜなら、破棄物の『質』によって、単価は変わります。どの等級の廃棄物の搬入量が増減し、それが売上にどう影響したのか、そこに意識を向けて欲しい、そんなことを、私は赤ペンで書き続けました。(中略)特効薬など見つかりません、地道に続けるしかありませんでした。しかし、時間はかかりましたが、効果はありました。つい数年前まで、『同じ搬入量でも、売上が多い月と少ない月がある』という事実に気づくことができませんでした。でも、今は、『今月の売上が多かったのは単価の高いE級の廃棄物の搬入が多かったからだ』ということに気づくことができるようになりました」(170ページ)
この、「数字の意味に気づいてもらう」という働きかけには、「特効薬」はないので、石坂さんのように、「赤ペン」を使って根気強く働きかけを継続するしかないと思います。ただし、戦略マップとKPIを活用することで、この働きかけが、少し容易になると私は考えています。なぜなら、各部署、各担当の目標を達成することが、会社全体の目標に、どのように反映されるかということが、視覚的に示されるからです。こうすることで、「もし、自分が手を抜いたら、会社全体の目標に影響する」ということが、より容易に理解できるようになります。
さらには、自分の努力は、決して埋もれることなく、きちんと評価してもらえるということも理解できるようになります。ちなみに、石坂さんは、ある従業員の方に、「売上が1億円を達成したら、特別賞与を出す」と伝えたところ、その目標を達成したそうですが、単に、「売上目標1億円を達成しなさい」と伝えるよりも、どうすれば1億円の売上が得られるか、その仕組が分かるようになっていれば、モラールも向上するし、目標が達成する確率も高くなるでしょう。
2022/9/16 No.2102