
デジタル委員会で徐々にデジタル化する
[要旨]
エグゼクティブコーチの谷口りかさんによれば、福岡県粕屋郡にある福岡ロジテックでは、会社のデジタル化を進めるため、社内にデジタル委員会を設立したそうです。この委員会では、例えば、簡易な勤怠管理システムを開発し、全社員が運行情報をリアルタイムで共有できる環境を整え、徐々に入力などを覚えていきながら、無理なく活用してもらえるシステムをつくるなど、同社が確実にデジタル化を定着させていったそうです。
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今回も、前回に引き続き、エグゼクティブコーチの谷口りかさんのご著書、「2024年問題成長するトラック運送会社が見つけた『答え』」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、福岡県粕屋郡にある福岡ロジテックでは、死亡事故が起きたことをきっかけとして、夜間運転全面禁にしたそうですが、これを行うにあたっては、取引先との調整などに労力を要したものの、事故率が下がったり、労働環境が改善したりして、業績の向上にもつながったということについて説明しました。
これに続いて、谷口さんは、福岡ロジテックのデジタル化について述べておられます。「安全で効率的な運行のために寄与しているのが、独自のデジタル化です。社内にデジタル委員会を設立し自社開発の配車システムの『ロジサマリー』、『ロジキュープ』で、荷物や車のマッチングで配車の手配をし、自前の簡単な勤怠管理アプリを利用して、運行情報を全営業所の全配車係が、リアルタイムで見る事が出来るシステムなども稼働させています。特に勤怠アプリに関しては、誰がどのくらい働いているかということを、全社員が見ることができるため、給与等に関しての透明性を持つこともできています。
デジタル化を成功させた背景には、社員一人ひとりの理解と協力を得るための工夫がありました。同社では、急激な変化が抵抗を生むことを考慮し、段階的に新しい技術やシステムを導入するアプローチを採用しました。これを主導したのが、社内に設立された『デジタル委員会』です。社長は『一度に推し進めると、慣れない作業と抵抗感もあって受け入れられないでしょう。だから、本当にちょっとずつできる事を増やしていく。そのうち、全部できるようになってくるから、次は改善点を見つけてまたより使いやすくアップデートしていく』と、まずはエクセルや既存の操作の中でできることから、新しいシステムを少しずつアップデートする方法を取りました。
この柔軟なアプローチにより、社員は新しいデジタル化の仕組みへの移行にストレスを感じることなく、徐々に操作を覚え、適応することができました。デジタル委員会の中心メンバーは、かつてSEとして活躍していた社員や理系大学を卒業した社員たちで構成され、専門知識を活かしてシステムの開発や導入を進めています。例えば、簡易な勤怠管理システムを開発し、全社員が運行情報をリアルタイムで共有できる環境を整えました。そして、徐々に入力などを覚えていきながら、無理なく活用してもらえるシステムを作っていきました。このような取り組みにより、従業員の利便性が向上し、業務の透明性も高まりました。
さらに、デジタル委員会は、ただシステムを導入するだけでなく、社員の意見を取り入れながら改良を続けています。このプロセスによつて、全社員がデジタルツールを自然に受け入れ、積極的に活用する文化が社内に根付いていきました。このように同社のデジタル化は、社員と会社が一体となって進めた取り組みです。段階的な導入と継続的な改良により、同社は業務の効率化だけでなく、社員の負担軽減と職場の快適さ向上を同時に実現しました。これこそが、デジタルシフトが成功した大きな理由です」
情報技術は、かつては、従来の業務の効率化、省力化のために使われることが中心でした。しかし、現在では、例えば、福岡ロジテックで行っている、「荷物や車のマッチングで配車の手配」を行うなど、情報技術があるからこそできる戦術で競争力を高める時代になっています。また、「勤怠アプリで、誰がどのくらい働いているかということを、全社員が見ることができるため、給与等に関しての透明性を持つ」ことができるなど、社内の情報共有によって、従業員の士気の維持・向上にも活用されています。すなわち、現在は、中小企業であっても、情報技術を活用できなければ、競争力を高めることができないということです。
しかし、このことは理解できても、実際に導入しようとすると、やはり、情報技術の苦手な従業員などの抵抗があり、なかなか進めることができないと悩んでいる経営者の方も多いと思います。そこで、福岡ロジテックのように、デジタル委員会を設置し、徐々に情報技術を定着化していくことが、最善の方法だと、私も考えています。そして、このような「委員会」が成功する鍵は、私は、社長の強い意志だと考えています。というのは、中小企業経営者の多くは、新しいプロジェクトを始めるにあたっては、最初は強い関心を持ちます。
しかし、それが始まると、徐々に関心が薄れてしまう方も少なくありません。でも、デジタル委員会の活動は、1年や2年では目標とするところまでに至らないでしょう。また、当初の目標を達成しても、その段階で、また新たな目標が生まれていたりするでしょう。ですから、本当に会社が情報技術を有効に活用できるようになったというところまで、経営者は強く関与しなければなりません。もちろん、社長は社長としての本来の務めがあるので、デジタル委員会の活動だけに関与することはできません。そこで、デジタル委員会委員長を、社長以外の幹部に任せることは問題ないと思います。
しかし、社長がデジタル委員会の活動に関心が薄れてしまうと、デジタル化に消極的な従業員たちは、社長の素振りを見て、自分たちもデジタル化に消極的になっても問題ないと考えてしまいます。そこで、日常的な活動はデジタル委員長が取り仕切っていても、要所要所で社長から従業員にメッセージを送らなければなりません。私も、中小企業の情報化武装をご支援することがありますが、これは、導入しさえすれば目的が達成するのではなく、情報技術が定着し、活用できるところまで経営者が関与していかなければ成功しないということに注意が必要です。
2025/3/1 No.2999