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[要旨]

鳥羽田継之さんのご著書、「なぜ信用金庫は生き残るのか」では、地域密着の営業活動が信用金庫が利用者の評価を得ていると説明しています。それは事実ではあるものの、例えば、城南信用金庫では、正常先への融資の割合が84%もあり、すべてにおいて地域密着が実践されているとは限らないと考えられます。

[本文]

日刊工業新聞社の鳥羽田継之(とっぱだつぎゆき)さんのご著書、「なぜ信用金庫は生き残るのか」を拝読しました。鳥羽田さんは、「信用金庫の融資相手は、出資者であり、また、営業地域も限定されているので、融資を受ける相手に寄り添った、地域密着の営業活動をしていることから、そのことが利用者から評価され、業績を伸ばしている」と説明しています。

私は、鳥羽田さんのご指摘は正しいと思うのですが、ただし、このことだけを伝えることは、読者に誤解を招くことになると考えています。「地域密着」という言葉は印象がよいので、金融機関以外の会社でも多く使われていますが、地域密着だけで事業を安定させることは、意外と難しいのも現実だと私は考えています。

少し、非論理的ですが、金融機関の職員は多忙であり、日常の業務をこなすことで精いっぱいのことが多いと思います。さらに、利用者に満足してもらえる能力や資質を備える職員を育成することも、なかなか難しいようです。また、「地域密着」という言葉をはき違えて、単に、利用者の言いなりになるということになってしまえば、それは、高コストの営業活動になり、金融機関の経営を苦しくしてしまうことになります。ここまで、私は、地域密着に否定的なことを書きましたが、決して、否定的ではありません。

私も、銀行に勤務していたときは、できるだけ地域密着であろうと努めたのですが、そのための余力を捻出することは、とてもたいへんであるということも現実だと考えています。また、仮に、地域密着を実践できたとしても、その効果は限定的だということです。だからといって、繰り返しになりますが、地域密着に消極的になるべきだと考えてはいませんが、地域密着になればそれですべてが解決するということではないということも現実だと思います。

ここで、同書の第3章で紹介されている、城南信用金庫(東京都品川区)の営業の状況を、同金庫の2021年版ディスクロージャー誌で見てみたいと思います。同金庫の、2021年3月期の融資額2兆3,547億円のうち、正常先の会社(≒黒字の会社)への融資額は、1兆6,618億円で、その割合は70.6%です。会社数では、融資をしている会社数54,155社のうち、正常先の会社数は45,950社で、その割合は84.8%です。必ずしも、正常先が黒字の会社とは限りませんが、この状況から見れば、城南信用金庫は、黒字の会社を選んで融資している傾向が高いと思います。

だからといって、私は、城南信用金庫の姿勢に問題があるとは思いません。とはいえ、必ずしも「地域密着」が徹底しているとは言えないようにも思います。もちろん、正常先への融資が、全体の84%を占めていることをもって、それが地域密着ではないとは断言できませんが、私は城南信用金庫は、地域密着を実践しつつも、それよりも貸出資産の健全化の方針を、さらに上位の方針にしていると感じます。

そして、何度も繰り返しますが、城南信用金庫の姿勢が誤っているわけではありませんが、地域密着は必ずしも上位の方針ではないし、また、それを実践するだけで金融機関のすべての課題が解決するわけではないということにも注意が必要です。私は、鳥羽田さんの指摘しているように、信用金庫が地域密着によって業績を高めていることは事実だと思いますが、業績が高まっている要因が地域密着だけとは限らないことも指摘することが、読者に誤解を与える可能性を減らすことになると考えています。

2022/5/23 No.1986

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