自己資本利益率ではなく総資産利益率
[要旨]
ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんは、同社CEOに就任してすぐに、ROA(総資産利益率)を主たる経営指標に据え、「5年間で6%にする」という数値目標を設定したそうです。ROE(自己資本利益率)を経営指標にする会社も多い一方で、荒川さんがROAを目標に選んだのは、当時のブリヂストンのように、事業を成長させる投資を行うために、銀行などから多額の借入を行い、装置産業として大きな資産を抱えている企業にとっては、すべての資産の効率性を把握できるROAが適切だと考えたからだそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、ブリヂストン元CEOの荒川詔四さんのご著書、「臆病な経営者こそ『最強』である。」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、荒川さんによれば、会社を経営するにあたっては、経営者としては目標とする数値を掲げることは重要ではあるものの、目標とする数値と多く選択しすぎると、従業員たちの活動が散漫になり、かえって、事業活動が非効率になってしまいかねないので、注意が必要ということについて説明しました。
これに続いて、荒川さんは、荒川さんが同社のCEOに就任したときに、ROAを主たる経営指標にした理由について述べておられます。「私はブリヂストンのCEOになってすぐに『ROA』を主たる『経営指標』に据え、『5年間で6%にする』という数値目標を設定しました。ご存知のとおり、ROAの計算式は『利益÷総資産』です。『総資産』とは、株主が出資した資本金や銀行資本金や銀行などからの借入金、保有している資産など、『企業に投下されたすべての資産』のことで、その総資産が利益獲得のためにどれほど効率的に活用されているかを示す『経営指標』です。
一方、『ROE(Return On Equity、自己資本利益率)』という『経営指標』を採用する企業もたくさんあります。ROEの計算式は『利益÷自己資本(株主が出資したお金)』、すなわち、株主の出資したお金が利益獲得のために、どれほど効率的に活用されているかを示す『経営指標』であり、これも非常に有意義な指標であることは論ずるまでもありません。しかし、当時のブリヂストンのように、事業を成長させる投資を行うために、銀行などから多額の借入をしているほか、装置産業という性格もあり、大きな資産を抱えている企業にとって重要なのは、すべての資産の効率化が求められる『ROA』だと考えました」(47ぺージ)
本旨からそれますが、荒川さんの記述に不正確な部分があるので、補足いたします。荒川さんは、自己資本について「株主の出資したお金」と述べておられますが、厳密には、「株主の出資額と、これまでの利益の蓄え」が自己資本です。これまでの利益の蓄えとは、いわゆる「内部留保」であり、会社の利益から法人税等と配当金を差し引いた金額の過去からの累積額を示します。
話を本題に戻します。主たる経営指標(=最終的な目標とする指標)を、ROAにするべきか、ROEにするべきかということについては、どちらが正しいかということは一概に言えません。すなわち、どれを選択するのかは、経営者がどのような経営方針に基づいて事業活動を行うかによって選択されることになります。ちなみに、教科書的にはROEが選ばれることが多いようです。その理由の1つ目は、ROAはROEの因数になっているからです。
これを計算式で示すと、ROE=利益÷自己資本=(利益÷総資産)×(総資産÷自己資本)=ROA÷(自己資本÷総資産)=ROE÷自己資本比率となります。このことは、ROEを改善めるためには、ROAを高くし、自己資本比率を低くすればよいということを意味しています。このような関係から、ROEはROAを包括する指標と理解されることから、ROEを経営指標とする会社が多いようです。なお、詳細な説明については割愛しますが、ROEをROAなどの指標に展開して管理する手法は、デュポン方式などと呼ばれ、広く知られています。
理由の2つ目は、ROEは株主にとって関心が高い指標であるからです。すなわち、自己資本に対してどれくらいの利益が得られているかを把握することで、自己資金の効率性を見ることができるからです。このことは、株主からみてどれくらいの配当を期待できるのかという目安になるからです。そこで、株主から支持を高めたいと考える会社にとっても、ROEは重要な指標になります。
では、荒川さんは、なぜ、ROAを目標としたのかというと、当時のブリヂストンは規模を拡大することが、競争が激しかったタイヤメーカー業界での生き残りにつながると考えたからでしょう。すなわち、銀行からの融資を受けて事業拡大をしようとしているときは、資産全体の効率性を重視しなければなりません。そこで、荒川さんはROAを目標としたと考えられます。話をまとめると、経営者がどの指標を目標とするのかは、経営者の打ち出す経営方針によって決まってくるということです。
2024/11/12 No.2890
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?