Win・Winの相手だけと取引をする
[要旨]
アルミ加工メーカーのヒルトップの相談役の山本昌作さんによれば、同社では新規顧客の獲得にあたっては、自分たちの将来性を考慮しながら、取引する相手を見つけているそうです。なぜなら、目先の利益にとらわれずに、この相手と仕事をすることで自分たちにも相手にもメリットがあるかどうかを見極めることが、長期的に自社の事業を発展させるからだということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、アルミ加工メーカーのHILLTOP株式会社の相談役の山本昌作さんのご著書、「ディズニー、NASAが認めた遊ぶ鉄工所」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、山本さんによれば、中小企業は売上では大手に勝てませんが、一人あたり利益率なら十分勝負できるので、自社の存在価値を信じ続け、社員や仕組みを改善していくことが重要であるということについて説明しました。
これに続いて、山本さんは、Win・Winの関係になれる会社とだけ取引をすることが大切ということについて述べておられます。「ヒルトップの営業部長・林新太郎は、『新規顧客の獲得にあたっては、自分たちの将来性を考慮しながら、取引する相手を見つけている』と話しています。『私たちは、新規顧客の獲得のために展示会に出展することも多いのですが、“展示会で大きなメーカーと知り合いたい”と思っているわけではありません。小さい会社でも、ベンチャー企業でもかまいません。
私たちが探しているのは、“ヒルトップとマッチする会社”、“ウィン・ウィンの関係になれる相手”、要するに将来性のある相手です。ヒルトップにとって“よい仕事”とは、単に売上が高い仕事ではありません。“自分たちのモチベーションが上がる仕事”、“自分たちのスキルが上がる仕事”、“会社のビジョンに近づく仕事”です。仮に、相手が世界的なメーカーであり、一定の利益が見込めるとしても、“こうしろ、ああしろ”というルールが多いなら、“将来性はない”と判断します。
ヒルトップは下請企業ではないからです。目先の利益にとらわれずに、“この相手と仕事をすることで、自分たちにも相手にもメリットがあるかどうか”を見極めるのが営業の仕事だと思います。受注するかしないかの最終的な判断は副社長に委ねますが、それよりも前段階で、“ヒルトップのビジョンと合致しているか”を判断するのが私たちの役割です』(林)」(81ページ)
山本さんがご指摘しておられるように、「取引する相手は、ウィン・ウィンの関係になれる相手」にすべきだということは、ほとんどの方がその通りだと考えておられると思います。ところが、これを実践しようとすると、現実にはなかなか難しいということも多いと思います。その理由は、取引先を選んでいると、売上が減ってしまうかもしれないという恐れを感じるからではないかと思います。
これは、論理的には不採算の仕事を受注すれば損をするとわかっていても、一方で、仕事がなくなることは避けたいという感情も強いので、受注を断ることに踏み切れないということは多いと思います。繰り返しになりますが、これは感情の話なので、どれだけ理論を並べても無意味という面もありますが、赤字の状態から脱することができない会社は、不採算の仕事を受注しているという共通点があるので、そのような会社が事業を継続させたいと考えるのであれば、1日でも早く経営者の考え方を変えなければならなりません。
では、どうすれば「ウィン・ウィンの関係になれる相手」と取引できるようになるかというと、まず、前々回、お伝えしたように、経営者の方が強い意志をもって現状を変えようとすることです。次は、正確な原価管理をすることです。不採算な取引を受注してしまう理由のひとつは、経営者が自社製品の原価を正確に把握できていないため、採算を得られると考えて受注しても、終わって見れば赤字だったということは、しばしば起きます。
そこで、正確な原価管理をしていれば、より正確な採算管理ができるようになり、経営者の適切な判断を促すことができるようになります。しかし、正確な原価管理をした結果、自社製品をライバルと比較して、価格が高い、または、価格が同じであっても性能が劣るということもあるでしょう。そうであれば、原価が高い理由や性能が劣る理由を探ったりして、改善点を見つけたりすることができます。
ただ、このような改善活動をしていても、すぐに効果が得られないと感じるかもしれません。でも、不採算の仕事を続けているよりは、わずかであっても改善が行われていることは間違いありません。そして、このような改善活動を根気強く積み重ねて行くことは、「ウィン・ウィンの関係になれる相手とだけ取引をする」という目標に近づくことにつながり、また、経営者の適切な決断を促すための自信にもなると思います。
2025/1/24 No.2963