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前回、不渡り処分の意味について説明しました。しかし、手形交換所規則による取引停止処分は、どちらかというと形式的な意味合いが強いものです。実質的には、1回目の不渡りを起こした時点で、その会社は社会的な信用を大きく失い、その時点で事業の継続ができなくなることが決定的になります。そして、2回目の不渡りが起きたときは、事業が継続できなくなったことが、形式的にも明確になるということです。実は、銀行は、預金取引であるにもかかわらず、自行の当座預金の取引先が不渡りを起こすことを極力避けようとしています。

なぜならば、前述のように、1回でも不渡りが起きれば、その会社は社会的な信用を失うので、そのきっかけとなる不渡りが、自行の当座預金取引をしている会社で起きれば、そのような会社と当座預金取引をしていた銀行の評価も下がるからです。もちろん、それだけではなく、自行と当座預金取引をしている会社は、多くは融資取引もあり、その会社への融資金の回収が難しくなります。さらに、不渡りは、その会社と商取引をしている近隣の会社にも悪影響を与えることになりますが、その取引相手の会社とも銀行が融資取引をしていることもあるので、銀行は、回収が難しくなる融資が増えてしまうことになります。

そこで、実態としては、手形が取り立てに回ってきたにもかかわらず、当座預金の残高が不足する会社へは、当座預金に急いで入金するよう、銀行から手形支払人に連絡します。その時点で、入金が間に合いそうであるという見込みであれば、銀行は、午後3時まで入金を待ちます。入金の見込みがない場合は、手形の取立を依頼した会社に対し、支払人から連絡し、手形の取立を取消て欲しい旨を依頼することがあります。この手形の取立の取消を、手形組戻といいます。話がそれますが、手形組戻をした場合、手形支払人は、支払期日をさらに後にした手形を新たに発行し、それを手形組戻をしてもらった会社に持っていき、組戻された手形と差し替えてもらうようです。

話を戻して、当座預金の残高が不足する会社に対しては、緊急の融資を実行し、不渡りを回避させるということも考えられますが、私が銀行に勤務していた経験では、そのようなことは行われませんでした。なぜなら、手形支払人は、手形決済資金が不足するのであれば、それを事前に分かっている訳ですから、そうであれば、遅くても手形期日の数日前に、銀行に融資の申し込みに来ています。その融資申込を事前にしていないということは、融資以外の方法で手形決済資金を集めようとしていたか、または、融資を申し込んでも断られるであろうと考えて、初めから融資を申し込まなかったのであろうと思われます。いずれにしても、手形決済資金を融資で調達しようという意思が、手形支払人にはないので、当日になって融資をするということはあまりありません。

ちなみに、話がそれますが、私が銀行に勤務していたとき、「あす、手形が回ってくるので、急いで融資をして欲しい」と融資相手の会社から依頼され、その晩、急いで融資稟議書を書き、本部まで出向いて融資稟議書を届け、翌日の融資実行日の午後3時ぎりぎりに本部決裁をもらって、ようやく融資を実行し、その会社の不渡りを防いだという経験は、何度かありました。話を戻すと、商取引をしている会社としては、1回目の不渡りが起きた時点で、その会社は、社会的信用に相当のダメージを受けるので、手形交換所の取引停止処分の制裁は、形式的な意味合いが強いということが、今回の記事の結論です。

ところで、この不渡り処分の猶予については、別の質問が届いているので、それについては、次回、ご回答します。なお、当事務所では、新型ウィルス感染症の影響を受けた会社さまからのご相談については、電子メールでのみ、無償でお受けしておりますので、ご希望の方は、こちらからお寄せください。→ http://yuushi-zaimu.net/contact/

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