衝突は起きても組織に悪い人はいない
[要旨]
コンサルタントの徳谷智史さんによれば、会社組織では、営業が『商品力をもっと上げてくれたら売れるのに』、製造が『営業が売ってくれたらより元手が増えるので、もっと良いものをつくれるのに』と、衝突が起きますが、これは、会社を良くしたいと思っての発言であり、会社を上手にまとめることが経営者の力量として求められているということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、徳谷智史さんのご著書、「経営中毒-社長はつらい、だから楽しい」を読み、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、徳谷さんによれば、「人の問題」は、経営をしていく以上、会社がどれほど大きくなっても、社長には常について回るものですが、仲間とともに歩むことで、一人では成しえない大きなゴールに向かうこともできるようになることから、その解決は経営の醍醐味の一つでもあると考えて取り組むことが大切だということについて説明しました。
これに続いて、徳谷さんは、会社内で起きる部署間の衝突について述べておられます。「人数が増えるにつれて起こるのが、他の職種同士の『文明の衝突』です。エンジニアと営業、製造と営業、インサイドセールスとフィールドセールスとカスタマーサクセスなど、同じ会社で、同じ顧客に向き合っていても、つくる立場の人、売る立場の人、売った後にかかわっていく立場の人では、価値観や向いているベクトルが異なります。
組織を機能別に分業すると、それぞれが部分最適に陥る、いわゆる『タコツボ化』が起こり、互いの考えが食い違ってくるのです。それゆえに、『営業が売れないのは製品が悪いからだ』、『いい製品をつくっているのに営業力がないから売れないんだ』などと衝突が起こります。ただ、私がコンサルタントやベンチャーキャピタリストとして、多くの組織を見ていてもどかしいのは、『文明の衝突』を起こしている人たちを一人ひとり見ていくと、ほとんどの場合、悪い人はいないということです。
営業が『商品力をもっと上げてくれたら売れるのに』、製造が『営業が売ってくれたらより元手が増えるので、もっと良いものをつくれるのに』と主張するのは、何も組織を崩壊させたいからではありません。自分たちの組織を良くしたいと思っての発言であり、『全体のゴールを達成するうえで、自分たちだけでなく、他の業種も頑張って欲しい』と言いたいだけなのですね。『タコツボ化』は組織が大きくなるほど起こるので、大企業でよく見られる現象ですが、スタートアップでも驚くほど多く起こります。
大企業だと衝突しながら事業が動いていきますが、スタートアップにおける事業間のハレーション(摩擦)は、最悪の場合、船が沈むきっかけになりますし、そもそも、そんなことに時間とエネルギーを割いている余裕はありません。(中略)こうした組織の問題をいかに食い止めて、組織をよりよい形で回していくか。ここが、すべての社長が直面する経営の難しさと言えるでしょう」(154ページ)
人は、その習性で、どうしても自分を中心に考えてしまいがちです。その結果、自分の所属する部署を優先して活動しようとします。それが部分最適です。しかし、本当は、自分の部署の観点からだけでなく、会社全体の視点から自分の部署はどう活動すべきかを考える、すなわち、全体最適の考え方で活動することの方が、結果として自分の部署のメリットも大きくなります。
しかし、従業員の方たちがこのように考えることができるようになるには、ある程度の訓練が必要になります。また、私が事業改善のお手伝いをしている会社に対して、バランススコアカードの導入をお薦めしていますが、それは、自分の部署が事業活動の中でどのような役割を担っており、それが会社全体の事業活動の中でどのような役割を果たすかが視覚化できるからです。
このツールを使うことで、会社の中で部分最適に基づく活動を減らすことが可能になります。このような全体最適の考え方が会社内に浸透して行けば、組織の習熟度は高まっていくでしょう。ただし、会社の中に部分最適の考え方をする人がいなくなるということはないでしょう。したがって、経営者な常に組織の成熟度を高めるための働きかけを続けなければなりません。まさに、「『人の問題』は社長につきまとう」ということであり、それに対処していくことが「経営の醍醐味」ということなのでしょう。
2024/9/26 No.2843