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技術者の帽子を脱ぎ経営者の帽子を被れ

[要旨]

ノンフィクション作家の松浦晋也さんによれば、スペースシャトル「チャレンジャー」の事故は、いったん、技術者が打ち上げ延期を勧告したにもかかわらず、政治的な圧力で打ち上げが行われて事故に至ったそうです。このように、プロジェクトは、技術的な問題と、成果を急ぐ側とのせめぎ合いが起きることは避けられないことから、両者は、それを念頭にプロジェクトに臨むことが欠かせません。

[本文]

ノンフィクション作家の松浦晋也さんが、日経ビジネスに、スペースシャトルチャレンジャー号の事故に関する記事を寄稿しておられました。チャレンジャー号は、1986年1月28日に、アメリカ合衆国フロリダ州ケネディ宇宙センターで打ち上げられましたが、打ち上げから73秒後に分解し、7名の乗組員が全員死亡しました。この打ち上げに先立ち、固体ロケットブースター(SRB)のセグメントをつなぎ合わせるジョイントに使われているOリングが侵食しており、SRBを製造したモートン・サイオコール社は、いったん、打ち上げを延期するようにNASAに勧告したそうです。

しかし、その後、「(モ社の)上級副社長のジェラルド・メーソンの意向が入る。メーソンはテレビ会議に出席する技術担当副社長のロバート・ルンドに。『技術者の帽子を脱いで、経営者の帽子をかぶれ』という言葉で、打ち上げに合意するよう迫り、ルンドはその圧力に屈した。この決定にボイジョリーは猛烈に抗議したが通らず、再開した電話会議で、モートン・サイオコールは打ち上げに合意した」結果、チャレンジャー号は打ち上げが行われるに至ったようです。

この事故については、結果がわかっているので、モ社の判断は誤りであることは明確なのですが、問題なのは、なぜ、経営学的に論じられるべきことは、なぜ、事前に正しい判断をできなかったのかということです。ちなみに、松浦さんは、1997年6月30日に起きた、NASDA(現JAXA)の地球観測衛星「みどり」の太陽電池パドル破断事故も同様であると述べておられますが、この手の問題は、繰り返して起きているようです。

ところで、このような事件は、成果を急いだ経営者が批判されがちですが、経営者も資金の提供者からの「早く成果が欲しい」という強いプレッシャーがかけられており、とても苦しい立場にあると思います。それは、「技術者の帽子を脱いで、経営者の帽子をかぶれ」という言葉に現れていると思います。したがって、単に経営者に改善を求めればよいということではないと考えられます。では、どうすればよいのかというと、浅学な私には明確な回答を出すことができません。

しかし、情報の透明化を図ることで、プロジェクトに関わっている人の合意を得やすくなると思います。中小企業では、宇宙開発のような巨大プロジェクトを実施する機会はないと思いますが、新しい事業に着手したにもかかわらず、なかなか成果が得られなくて、経営者の方がやきもきするということがあると思います。その難しい役割から、最高責任者の経営者の方は逃れることはできませんが、心理的安全性を確保し、ネガティブな情報も経営者に届くようにしておくことが、最善の判断ができるようになることだと思います。

2024/8/18 No.2804

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