事業再構築補助金の根抵当権問題(3)
[要旨]
補助金適正化法では、補助金で得た不動産を担保にすることを禁止しています。これは、補助金の目的外の利用を防ぐための妥当な規定です。しかし、補助金で得た不動産を担保にしなくても、資産の増加した会社は融資を受けやすくなるので、担保にしたかどうかだけでは、補助金を利用して融資を受けたかどうかを判断することはできません。
[本文]
前回は、事業再構築補助金では、補助金で建てた建物の敷地に根抵当権がついている場合、建物が追加担保とされないことを確認できることが求められているが、建物に根抵当権がついていなくても、敷地の根抵当権実行時に、建物も敷地といっしょに一括競売できるので、そのような規定はあまり意味がないということを述べました。今回は、事業再構築補助金の不動産担保に関する、もっと根本的な誤謬について述べます。
「補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)」の第22条では、「補助事業者等は、補助事業等により取得し、または、効用の増加した政令で定める財産を、各省各庁の長の承認を受けないで、補助金等の交付の目的に反して使用し、譲渡し、交換し、貸し付け、または、担保に供してはならない」と規定しています。この規定が、事業再構築補助金で建てた建物に根抵当権をつけることを禁止する根拠になっていると思われます。
確かに、補助金で建てた建物を担保として融資を受けることは、その建物を売却してその代金を得ることと近い経済的効果があるので、そのようなことを禁止することは妥当です。しかし、不動産に根抵当権をつけることは、不動産を処分して債権を回収する権利を得ることとは異なります。債権者は、担保契約の有無にかかわらず、債務者が債務の履行ができなくなったときは、債務者の財産を処分して債権の回収を行うことができます。
ただし、根抵当権がついている場合は、その根抵当権の権利者(銀行)は、対象の不動産の処分代金を、他の債権者に優先して、自らの債権を回収にあてることができるということです。(担保物件は、必ずしも債務者の所有する不動産とは限りませんが、現在の銀行の融資実務では、担保にする不動産は、融資を受ける会社か、その経営者の所有する不動産に限定していますので、以下、担保物件は、債務者の所有しているものという前提で説明していきます)
したがって、例えば、6,000万円の事業再構築補助金を受け取った会社が、融資を受けず、自己資金4,000万円と合わせて、1億円の建物を建てた場合、その会社は、現金資産が4,000万円減少しますが、固定資産が1億円増加するので、正味6,000万円の資産が増加することになります。(補助金は、税金の計算上、益金になり、受け取った補助金額に応じて納税額が増加するので、その金額だけ資産増加額が減少しますが、ここではそれは考慮しないこととします)
そのことは、銀行からみて、その会社の債務返済能力が高まったと判断できるので、その建物を担保としていなくても、融資審査に有利に働きます。そこで、その会社が、その信用力を活かして、補助対象事業以外の事業のために融資を受ければ、補助金を使って融資を受けたことと同じと考えることができます。このことから分かるとおり、補助金で建て建物に根抵当権をつけたかどうかということだけでは、補助金を利用して融資を受けていないかどうかは判断はできません。では、補助金適正化法第22条の規定は無意味なのかというと、そうではないと、私は考えますが、これについては、次回、説明します。
2021/11/1 No.1783