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経営者は融資の仕組みを知る必要はない

いま、銀行からの融資を受けることに苦心しているであろう中小企業経営者の方向けに、銀行から上手に融資を受けるための情報が、書籍やインターネット上にあふれています。しかし、これは以前から私がお伝えしていることでもありますが、中小企業経営者の方は、銀行の融資の仕組みに詳しくなる必要はありません。その理由のひとつは、これは私の経験から感じることなのですが、会計については、人によって向き不向きがあるからです。

例えば、銀行職員は、数字に強いと思われがちですが、銀行が融資をしている顧客の決算書を見て、融資の可否を判断できる人は、割合としてはあまり高くありません。恐らく、半分どころか、多くても30%くらいだと思います。ただ、話がそれますが、このことは大きな問題ではありません。銀行の業務は、融資業務以外にも、預金業務や為替業務もあるので、会計が苦手な職員は、融資業務以外で能力を発揮できるからです。

話をもどすと、この会計の向き不向きは、中小企業診断士試験でも見られます。私が、中小企業診断士受験生の時のことでしたが、中小企業診断士試験には、経済学・経済政策、企業経営理論など、8つの試験科目(現在は、7科目)がありますが、そのひとつである、財務・会計に関してだけは、得意な受験生と苦手な受験生に明確に分かれていました。すなわち、財務・会計を得意な受験生は高得点を取る一方で、苦手な受験生はあまり高い点を得ることができないという傾向にありました。きちんとした統計データはありませんが、財務・会計の試験結果については、平均点付近の得点者が最も多いという正規分布ではなく、得意な人たちが高い得点で山をつくり、苦手な人たちは低い得点で山をつくるという、ふたこぶらくだのような分布をしていると言われています。

ここまで、銀行職員と中小企業診断士試験受験生について例をあげましたが、お伝えしたかったことは、会計については、得手不得手が分かれやすい分野になっているということです。もちろん、会計が苦手なビジネスパーソンは少なくありませんが、そのことだけで問題になるわけではないということは、言うまでもありません。逆に、会計が得意であっても、例えば、人間関係の構築が苦手といったビジネスパーソンを、私は、これまでにたくさん見て来ました。ビジネスパーソンは、最終的には、総合的な能力が問題になって来ると思います。

話を戻すと、俗っぽく言えば、銀行の融資担当者は、ある面で、会計オタクのようなものです。だから、通常は、自らが経営する会社の事業で活躍している経営者の方が、わざわざ専門書を読んで、銀行の融資の仕組みを理解し、融資担当職員と同じ考え方に合わせて事業を行おうとする必要はまったくないと、私は考えています。また、仮に、私が銀行の融資担当者であったとしたら、やたらに銀行の事情に詳しい会社経営者の方が、融資の申し込みに来た時、逆に、「どうしてそんなに銀行の事情に詳しいのだろうか?何か銀行に言えない隠しごとがあり、銀行をあざむこうとしているのではないか?」と、警戒するでしょう。

とはいえ、融資を思うように受けることができないために苦心している会社経営者の方は、その状況を改善したいと考え、書籍やインターネットとから、融資を受けやすくなるためのノウハウを得たいと考えたくなるでしょう。しかし、私は、そのための労力は、自社の事業の改善のために使うことの方が、融資を受けやすくなるようになるための近道だと考えています。銀行の融資担当者は、財務分析は得意かもしれませんが、業績を改善する方法に関する知識量では、常に事業の現場にいる経営者の方にはかないません。繰り返しになりますが、自社が融資を受けやすくなる近道は、融資の仕組みに詳しくなることではなく、自社の業況を改善することに尽きます。

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