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『値決めは経営』は体系的な意思決定

[要旨]

製品の価格は、注文を失わなずに、顧客が喜んで買ってくれるものとすることが、自社の利益を最大化することになるので、経営者が行うべき重要な事項です。しかし、それを実践できるようにするためには、自社製品の競争力を高めたり、採算管理の仕組みが整っていたりするという条件が必要であり、単に、経営者が意思決定すればよいということではありません。

[本文]

今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」を読んで、私が気づいたことについて述べます。稲盛さんの、「値決めは経営」という言葉は、あまりにも有名ですが、今回は、その言葉に関する、稲盛さんの説明を紹介したいと思います。「京セラは、創業当時から、電子機器メーカーに電子部品を納めていたが、電子部品の業界は、新規参入も多く、競争が激しいため、当時、無名に近かった京セラに対して、いつも、非常に厳しい値下げの要求があった。競合品があれば、天秤にかけられて、徹底的に値切られた。また、毎年毎年値段を下げられた。

そうなってくると、営業は、注文を取るために、いくらでも値段を下げていく。こんなことをしていたらどうにもならないので、私は、『商売というのは、値段を安くすれば誰でも売れるが、それでは経営はできない。お客さまが納得し、喜んで買ってくれる最大限の値段、それよりも低かったらいくらでも注文は取れるが、それ以上高ければ注文が逃げるという、このギリギリの1点で注文を取るようにしなければならない』ということを、社内の営業部門に対して、繰り返し強調した。顧客が喜んで買ってくれる最高の値段を見抜いて、その値段で売る、その値決めは経営と直結する重要な仕事であり、それを決定するのは経営者の仕事なのである。

つまり、売上を最大にするには、単価と販売量の積を最大とすれば良い。利幅を多めにして、少なく売って、商売をするのか、利幅を抑えて大量に売って商売をするのか、値決めで経営は大きく変わってくるのである。(中略)このように、経営において、値決めは最終的に、経営者自らが行わなければならないほど重要な仕事なのである。個々の売値の設定を経営上の重大問題とする考え方は、京セラにおいて深く浸透しており、これが在庫評価の考え方、採算管理システムのあり方など、京セラの会計に大きな影響を与えている」(32ページ)

「値決めは経営」という言葉からは、値決めをすることは、経営者が責任を持って行わなければないほどの、重要なことだということは、容易に理解できると思います。ただ、中小企業では、この考え方を実践している会社は、あまり多くないのではないかと、私は考えています。その理由のひとつは、経営者の方が、価格決定に強く関与できない状況にあることが多いということです。中小企業は、相対的に経営資源が少ないため、大企業のような薄利多売の低価格戦略を実践することは困難なので、多くの中小企業は、必然的に付加価値を重視した高価格戦略を選択することにならざるを得なくなります。

しかし、一方で、高付加価値を実現することができない会社は、結局、価格でしか競争できず、経営者が能動的に価格決定に関与できない状況に陥ってしまうということも少なくないと思います。これについては、前述したように、稲盛さんも、「値段を安くすれば、誰でも(自社製品を)売れるが、それでは経営はできない」とご説明しておられます。もうひとつは、採算管理を行う仕組みが構築されていないということです。価格を決定することができたとしても、その決定が、事後的に、正しかったのかどううかを確かめることができなければ、経営者の方が値決めをする意味が薄れてしまいます。

採算管理の仕組みがなくても、決算書で会社全体の利益が得られたかどうかはわかりますが、仮に、利益が得られたとしても、どの製品でどれくらいの利益が得られたのかが分からなければ、経営者の意思決定の正しさを把握することはできません。したがって、「値決めは経営」の考え方を実践するには、単に、経営者が価格を決定するだけではなく、価格戦略や事業戦略の策定や、管理会計の仕組みを整えることが必要になります。すなわち、価格決定は経営判断で行われるわけですが、それは、当然のことながら、その経営判断は、体系的なものであることから、そのための体制が整っていなければ、重要な経営判断も行うことの意味もなくなるということです。

2022/12/6 No.2183

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