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[要旨]

会社の事業の改善活動は、会計データを共有し、その問題点を共通の認識とすることから出発しますが、従業員たちに自分事として能動的に改善活動に臨んでもらうためには、権限の委譲や、小集団活動の実施などの施策も合わせて行うことが肝要です。

[本文]

今回も、前回に引き続き、共同通信編集委員の橋本卓典さんが、ダイヤモンドオンラインに寄稿した、山梨県北杜市にある駅弁製造会社の丸政の事業改善に関する記事について、私が気づいたことを説明したいと思います。前回は、会社の会計データを役職員で共有することで、事業の改善点を共有できものの、さらに、それをKPIとして、各部門、各製品などに分解していくと、全社目標を達成するために必要な、各部門や各個人の役割や、個々の目標が明確になり、能動的な改善活動を行いやすくなるということを説明しました。

今回も、これについてさらに掘り下げたいと思いますので、丸政さんが銀行の支店長から受けた助言について、再々度、その部分を引用します。「丸政では全社員で決算書の試算表を共有し、どれだけ稼げばボーナスが増えるのかを可視化。そうすることで、従業員が自発的に経営改善点を提案できる体制を築いている。実際、試算表の共有により、年間1,000万円を経費として計上していた環境衛生費---つまりごみ代に目が向けられるようになった。ごみを捨てるために、お金を捨てているという事実を従業員が『自分事』として捉えるようになったのだ。利益も経費も、『ちりも積もれば山となる』だ。従業員の思考を変化させることの意義は大きい」

この助言のなかに、「自分事」というキーワードがでてきますが、会計データを共有したり、それをKPIに落としたりするほかに、別の施策も必要になると、私は考えています。そのひとつは、権限の委譲です。権限を委譲しなければ、何をするにも、上司や社長に承認を得ることが必要になり、改善活動を「自分事」としてとらえることは難しくなります。詳しい説明は割愛しますが、改善活動について自分事として活動してもらおうとする一方で、その活動について、都度、上司の承認を得なければならないのであれば、その活動は自分事にならないということは明らかです。ですから、会社によってどの程度の権限の委譲ができるかは異なると思いますが、それでも、可能な限り、権限を委譲することが鍵になると思います。

ふたつめは、「小集団活動」を行ってもらうことです。小集団活動は、例えば、ひとつの部門の従業員に集まってもらい、その部門のKPIを達成するために、どのような活動をするのかということを、従業員の方たちだけで話し合って決めてもらい、自ら決めた方法を実践してもらうという活動です。このとき、部長や経営者などは、オブザーバー、または、アドバイザーなどに徹し、指示や命令は行わないようにします。そして、自ら決めたことを自ら実践することで、改善活動を自分事として実践することになります。

さらに、この活動によって成果が現れることで、モチベーションが高くなったり、能動的、かつ、自立的な行動ができるようになったりする効果が得られます。丸政さんが、実際に、このような権限委譲や小集団活動を実際に行ったのかどうかは、私は承知していないのですが、銀行支店長が丸政さんに伝えた助言は、それを従業員の方に伝えただけでは、うまく実践できることは少ないと思います。少なくとも、組織的な活動ができるような工夫が必要ということに間違いはないと、私は考えています。

2023/4/26 No.2324

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