会社が革新的であり続けることは難しい
[要旨]
冨山和彦さんによれば、日本では「ソニーはなぜAppleのようになれないのか」と疑問に持つ人がいますが、設立後60年を超える会社には、それは難しいと考えているそうです。というのは、会社にも寿命というものがあり、クリエイティビティの最前線を担うにふさわしい年齢があるそうです。Appleは、今、30歳くらいの青年期の会社ですが、やがて組織全体が歳をとってくれば、きっと、今のように新たなアイディアを次々社会に問うような会社ではなくなってしまうと考えているそうです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、冨山和彦さんのご著書、「結果を出すリーダーはみな非情である」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、冨山さんによれば、大企業が倒産するのは、森の中で大木が倒れるようなものであり、寿命を迎えた大木が倒れると、森が明るくなり、地表近くの新しい芽に日が当たるようになると考えることができるので、1990年前後の米国のシリコンバレーの大不況期の後に、Yahoo!やGoogleが新興企業として登場したことは、新陳代謝が図られたと見ることができるということについて説明しました。
これに続いて、冨山さんは、会社には寿命があるということについて述べておられます。「日本では、『どうすればソニーが復活するか』といった議論をよく聞くが、私に言わせればナンセンスの極みである。戦後すぐにできたソニーは、創業から60年以上経っている。人間で言えば、すでに還暦を過ぎた会社だ。しかも、従業員数が10万人をはるかに超える巨大企業である。
それだけ年老いた巨大企業に新たに生まれ変わってほしい、しかも、かつてのソニーのような若々しくイノベーティブな会社に、と期待するのは無理がある。アメリカでも、1878年に設立された、ゼネラル・エレクトリック(GE)のように、長い歴史を持つ会社はある。発明王エジソンがつくったGEも、電球やレコードプレーヤーなど、かつてはアメリカで最もイノベーティブな家電メーカーだった。そういう意味では、ソニーと似ているかもしれないが、今のGEは、金融や充電で稼ぐ会社に変貌している。
会社としてはとうの昔に100歳を超えているが、100歳を超えた、図体が大きくなったなりの事業内容、勝負できるフィールドというものがあるものである。誰も、GEにGoogleになることを期待してはいない。日本では、『ソニーはなぜAppleのようになれないのか』と、いぶかしがる人が大勢いるが、会社の年齢が違うのだから、そもそも無理な話である。会社にも、やはり寿命というものがあり、クリエイティビティの最前線を担うにふさわしい“年齢”はある。
Appleは、今、せいぜい30歳くらいの青年期の会社である。そのAppleであっても、スティーブ・ジョブスがこの世を去り、やがて組織全体も歳をとってくれば、きっと、今のように新たなアイディアを次々社会に問うような会社ではなくなってしまうだろう。Microsoftに関しては、すでに青年期を過ぎたのではないかと思われる。最近は、かつてのような革新性や攻撃性が見られない。それは恐らく歳をとってしまったからだろう。
組織も若くなければ、革新性を生み出せない。大きく、古くなった組織が革新的であり続けるのは難しい。だからこそ、新しい産業や企業が出てこなくてはならない。そのためには、古い大木は倒れて消えていかないと、森の中で新陳代謝は起きない。ソニーやほんだがベンチャーとして立ち上がったのは、終戦直後の昭和20年代のことだった。あのころは、大きな企業はみんな倒れていたから、彼らが見上げる日本の空は、青く広々としていたことだろう。
今の日本は、当時の戦後日本さながらである。いや、むしろ昭和初期(1920年代後半~30年代)の、一見、アジアの新興覇権国として繁栄しているようで、実際は、坂道を転がり落ち始めたころに近いかもしれない。オチオチしていたら、国がつぶれかねない情勢と言っても過言ではない。だからこそ、今からでも、“撹拌”を急がなければならない。そして、歴史が証明する通り、国であれ、企業であれ、日本の組織で最も撹拌力を持っているのは、ミドルリーダーなのだ」(56ページ)
1990年に、米国の経営学者のハメルとプラハラードが、ハーバード・ビジネス・レビュー に共同で寄稿した論文の中で、コア・コンピタンスという考え方を公表していますが、その中に、コア・コンピタンスを活用している会社の例として、ソニーが登場しています。ソニーのコア・コンピタンスは、テープレコーダーの小型化技術であり、当時は、ソニーの製品は高く評価されていました。また、両氏は、シャープの液晶技術もコア・コンピタンスとして評価していますが、そのシャープは、リーマンショック以降、業績を悪化させ、2016年に鴻海精密工業の子会社となりました。
別の会社の事例ですが、からくり人形を発明したことで有名な田中久重が、明治8年(1875年)に、東京の銀座で設立した田中製造所、現在の東芝は、石坂泰三、土光敏夫、西室泰三などの経済界に影響力のある社長を輩出しましたが、やはり、リーマンショック以降、業績を悪化させ、2023年に上場廃止に至っています。こう考えると、冨山さんの、「会社にも、やはり寿命というものがあり、クリエイティビティの最前線を担うにふさわしい“年齢”はある」というご指摘はその通りなのかもしれません。
もちろん、すべての会社が60年を過ぎると業績が悪化するのかというと、決してそうではありません。例えば、任天堂は1889年に設立され、130年以上事業を続けている長寿企業です。でも、当初は花札やトランプを製造する会社でしたが、現在は、ゲーム機を開発しているファブレス会社になっています。私は、同社は、会社としては流れを汲んでいるものの、実質的には別会社になっているととらえています。
もちろん、会社は存続することが直接的な目的ではなく、長く顧客から支持される結果として会社も存続することになるのだと思います。そして、長く顧客から支持されるためには、“クリエイティビティ”を持続させることが鍵になっています。こう考えれば、経営者の重要な役割は、クリエイティビティを持続させたり、また、それを持続できる組織づくりということになると思います。だからこそ、会社が“ムラの論理”を最優先する組織になるようなことは避けなければならないでしょう。
2024/7/27 No.2782