土俵の真ん中で相撲をとる
[要旨]
銀行は、会社がピンチになると、融資取引を解消しようとします。そこをなんとか切り抜けて安心してしまうと、またピンチが訪れると、また、大きな労力をかけることになります。そこで、もう少し努力を続けて、利益を積み上げていくと、会社がもっと余裕を持てる状況になるので、ピンチを切り抜けるだけでなく、さらに、経営が安定し、競争力を高めることができるようになります。
[本文]
今回も、前回に引き続き、稲盛和夫さんのご著書、「稲盛和夫の実学-経営と会計」を読んで、私が気づいたことについて述べます。稲盛さんは、京セラを創業して間もないころは、銀行からの融資を早く返済しなければと、常にプレッシャーを感じていたそうですが、現在の京セラは、実質無借金の状態になっています。具体的には、2022年3月期連結ベースで、約965億円(リース負債を合わせると、約1,493億円)の借入金があり、一方で、現金及び現金同等物が、約4,141億円となっています。(ご参考→ https://bit.ly/3iLefuw )
このような状態になったのは、京セラの利益剰余金(≒内部留保)が、約1兆8,461億円と、売上高の、約1兆8,389億円を上回るまでに積み上がっているからです。京セラが、このような状況になったことについて、稲盛さんは、「土俵の真ん中で相撲をとる」という言葉で説明しています。「私がよく使う言葉に、『土俵の真ん中で相撲をとる』というものがある。土俵際ではなく、まだ、余裕のある土俵の真ん中で相撲をとるようにする、という意味である。土俵際に追い詰められ、苦し紛れに技をかけるから、勇み足になったり、際どい判定で負けたりする。
それよりも、どんな技でも思い切ってかけられる土俵の真ん中で、土俵際に追い込まれたような緊張感を持って勝負をかけるべきだ、ということである。これは、企業財務に関して言えば、『常にお金のことについて心配しなくても、安心して仕事ができるようにすべきだ』ということであり、そのような強い思いが、京セラを早い時期より無借金経営に導いたのである。世の中の経営者には、銀行から借金をして、それを元手に事業を急速に拡大していく方が良いと考えられる方が、多いであろう。
しかし、最近の貸し渋り問題を見てもわかるように、銀行は、『天気の良い日には傘を貸すが、雨が降れば傘を取り上げる』と言われている。酷な話に思えるが、お金を貸して取りはぐれたのでは、銀行の経営が成り立たないので、雨が降ったら、借りた傘は取り上げられるというのは当たり前と考え、どんなときでも自分の力で雨に濡れないようにしておかなければならない。つまり、土俵の真ん中で相撲をとるような経営を、常に心がけていなければならないのである」(55ページ)
稲盛さんの指揮するように、(実質)無借金経営になれば、会社の意思決定が、ほぼ単独でできるようになりますし、何より、経営が安定します。そうなれば、まさに、土俵の真ん中で相撲をとる状態であり、会社の競争力が高くなります。とはいえ、すべての会社が、(実質)無借金経営の状態になることは、なかなか難しいと思います。しかし、(実質)無借金経営の状態にはならなくても、複数年にわたって利益を計上し続けるなど、銀行から見て融資をしたいと思われるような会社になることができれば、土俵際で勝負するようなことはなくなると思います。
そのような会社は、土俵際に追い込まれ、なんとか踏みとどまろうとするための労力を、もっと、前向きな活動に注ぐことができるようになります。私自身もそうなのですが、ピンチに遭ったあと、それを切り抜ける、すなわち、土俵際で踏みとどまることができると、そこで安心してしまいがちですが、もっと、土俵の真ん中にいくと、さらに、会社を強くすることができるようになります。
2022/12/10 No.2187