航空業ではなく自由提供ビジネス
[要旨]
サウスウェスト航空は、低価格運賃で業績を回復させましたが、これは、「空を民主化する」というパーパスに基づく方針によるものでした。これにより、多くの人が自由に移動できるという、同社が顧客に与えるベネフィットが明確になり、さらに、「自由提供ビジネス」という市場転換をするに至っています。
[本文]
今回も、前回に引き続き、PRストラテジストの本田哲也さんのご著書、「ナラティブカンパニー-企業を変革する『物語』の力」を読んで、私が気づいたことについてご紹介したいと思います。本田さんは、ナラティブカンパニーの重要な要素として、「パーパス」を挙げておられます。本田さんのいうパーパスとは、「企業ブランドの『存在意義』」のことであり、その事例として、サウスウェスト航空のパーパスについて述べておられます。
「サウスウェスト航空は、その便数の多さや、リーズナブルな運賃を、同社のパーパスで上手に意味付けしている。同社の創業者には、『Democratize the skies(空を民主化する)』というユニークな言葉がある。言ってみれば、『人々に飛ぶ自由を!』という思いだ。低運賃をはじめ、すべてのサービスは、これまで移動に飛行機を利用できなかった全国民の85%に、『空を飛ぶ自由を与えるため』というわけだ。
これによって、『飛ぶ自由』というナラティブが生まれ、既存のサービスには新たな輝きが加わる。この理念をベースにした同社のパーパスはこうだ。『Connect People to what’s important in their lives through friendly, reliable, and low-cost air travel(親しみやすく、信頼でき、低価格な航空サービスを通じて、人々と、彼らの人生にかけがえのない何かをつなぐ)』
ここで重要なのは、このパーパスは、同社の『市場転換』にも寄与しているということだ。サウスウエスト航空のポジションは、『航空サービスビジネス』ではなく、『自由提供ビジネス』だ。『飛ぶ自由』というナラティブになった瞬間、便数が多く、低運賃なサウルウエストの独壇場であり、結果として、同社は、競争優位を持つことになる。これを、『ベネフィット市場』と呼ぶ」(90ページ)
引用の最後に出てきたベネフィットについては、ドイツ生まれの経済学者のセオドア・レビットが1971年に著した著書で、「人々は、4分の1インチのドリルが欲しいのではなく、4分の1インチの穴が欲しいのだ」と述べて、その大切さを説いています。そして、サウスウェスト航空では、「人々は、飛行機に乗りたいのではなく、気軽に飛行機を利用して移動できる自由が欲しいのだ」というベネフィットを明確にしました。
さらに、そのことによって、同社は市場転換も行ったわけです。このベネフィットの明確化の重要さは、すでに広く知られていますが、ナラティブカンパニーの要素としても重要だということがわかります。そして、サウスウェスト航空のように、市場転換をできるようにすることも、時代に合った手法だと思います。
2023/1/10 No.2218