失敗をするなというと報告が来なくなる
[要旨]
失敗を減らそうとして、部下に「失敗してはならない」とプレッシャーをかけた場合、失敗がなくなるどころか、失敗が起きても報告されなくなるだけでなく、さらにそれらが深刻化してしまいます。したがって、失敗が起きたときには、それを隠すことなく、必ず報告してもらえるような環境づくりが大切です。
[本文]
九州大学ビジネススクールの松永正樹准教授が、ポッドキャスト番組で、心理的安全性についてお話しておられたのですが、とても印象に残ったので、ここでシェアしたいと思います。松永さんは、心理的安全性について研究している米国の社会学者で、ハーバードビジネススクール教授の、エイミー・エドモンドソン女史の研究結果についてご紹介していました。
それによれば、心理的安全性が高い医療機関では、そもそも新しいやり方を積極的に試して、これまでにはないけれども、より質の高い医療を実現しようと挑戦する傾向が強く、その分ミスも起きやすい、そして、ミスが起こった時も、それをオープンに話し合って改善点を皆で議論し合うという文化がある、ということがわかったそうです。
一方で、一見、ミスが少ないように見えた心理的安全性が低い医療機関では、実際には、スタッフが失敗を極度に恐れていて、トラブルが発生しても、周りには相談せずに、単独で解決し、結果も報告しなかったことから、報告書に表れるミスの件数は少なかったということがわかったそうです。
さらに詳しく見ていくと、心理的安全性が低い医療機関では、同じミスを何度も繰り返していたり、誰かが発見した解決法があっても、それが組織内で共有されないので、別の部署では問題が放置されたままになっていたりして、より深刻な問題が見られることが明らかになったのです。すなわち、部下に「失敗してはならない」とプレッシャーをかけても、失敗がなくなるどころか、失敗が起きても報告されなくなるだけでなく、さらにそれらが深刻化してしまうということです。最近では、あの、大手銀行のATMの事例が思い浮かびますね。
このことは、多くの方が容易に理解できると思いますが、その一方で、実際に、「失敗しても責任は問わないから、必ず、報告して欲しい」と部下に対して明言することは、経営者としてはとても勇気がいることだと思います。仮に、私が、会社の経営者に就いたとしても、このようなことは、なかなか言いにくいですね。ただ、優秀な経営者とそうでない経営者というのは、単に、たくさんの理論を知っていたり、多くの経験を積んでいるだけでは足らず、こういったところでリーダーシップを発揮できるかどうかというところで分けられるのだと思います。