見出し画像

前回、永久劣後ローンについて説明しましたが、「劣後ローンを利用すると、どういう利点があるのか」というご質問がありましたので、今回は、それに回答したいと思います。まず、劣後ローンの融資としての側面は、前回説明した通り、融資を受けた後は、毎月の定例返済はせず、利息のみを支払えばよいので、一般の融資よりも会社の資金繰を安定させることができます。これについては理解される方も多いと思いますが、なぜ、会社の利益が増えたとき、劣後ローンの利率が高くなるのかという点について、ピンと来ない方もいると思います。

これについても、前回も説明しましたが、劣後ローンには、会社が倒産したときなどに、劣後ローン以外の債務の返済が終わった後に、その残りの財産で劣後ローンの返済を行うという特約がついているため、他の融資よりも返済されない可能性が高い融資になっています。その分、一般の融資よりも高い利率とする必要があります。(劣後ローンは、融資を受けている会社の利益が少ないときは、利率が低くなるか、無利息となりますが、融資を受けている期間のトータルで支払われる金利は、一般の融資よりも多くなるという前提で契約が行われます)

ここで、「必要がある」と書いたのは、融資をする銀行が高いリスクを負う以上、それに見合った利率を得ることができなければ、正常な取引とみなされないということです。これを言い換えると、劣後ローンのリスクの高さに見合う利率を設定しなければ、その会社は特別な支援を要する状態、すなわち、業績の悪い会社であるということになり、その会社への融資は、いわゆる不良債権と判断しなければならないことになります。

したがって、劣後ローンの利率の高さは、リスクの高さの裏返しでもあるということです。では、これは前回説明しなかったことなのですが、前述の、劣後特約を付けることの利点はどういうことかというと、劣後ローンの金額は、銀行の融資審査では、純資産(自己資本)とみなしてもらえるということです。すなわち、劣後ローンは、形式的には融資なので、貸借対照表では「固定負債」に計上されますが、融資審査では、劣後ローンの金額を「純資産」に加えられます。

例えば、総資産10億円の会社の純資産が2億円であったとき、自己資本比率は20%です。しかし、その会社が劣後ローン5千万円を受けているとすると、融資審査上の自己資本比率は、純資産の2億円に劣後ローンの5千万円を加えた金額で計算されるので、25%となります。ここで、「融資審査上の自己資本比率」と書いたのは、一般的には、劣後ローンを利用しているかどうかは、その会社自身、及び、その劣後ローン契約をしている銀行だけにしか分からないからです。

したがって、前述の会社に対しては、劣後ローンを契約している銀行以外の銀行は、その会社の自己資本比率を20%と計算します。ただし、劣後ローンを利用している会社が、劣後ローン契約をしている銀行以外の銀行に、自社が劣後ローンを利用していることを伝えたり、決算書の注記に劣後ローンの利用額を載せることで、その銀行からも、劣後ローンの金額を自己資本とみなしてもらえることもあります。

話を戻して、繰り返しになりますが、劣後ローンの金額は、銀行の融資審査上、純資産とみなされ、自己資本比率が高くなるので、それ以外の融資を受けるとき、有利に働きます。ただ、この利点は、なかなか目に見えないものなので、会社経営者の方が劣後ローンを積極的に評価しないのではないかと、私は、やや、悲観的に考えています。

いいなと思ったら応援しよう!