経営は『想い』と『経済力』の両輪で
[要旨]
経営コンサルタントの板坂裕治郎さんによれば、事業は利益が得られなければ継続できないものの、損得を最優先さると、その価値観を持つ相手としか取引できなくなり、「金の切れ目が縁の切れ目」になってしまいます。そこで、事業にかける「想い」を利害関係者に伝えることで、同じ価値観を持つ人たちと強い関係を持つことができ、それが自社の事業を安定化させることに資するということです。
[本文]
今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの板坂裕治郎さんのご著書、「2000人の崖っぷち経営者を再生させた社長の鬼原則」を読んで、私が気づいたことについて述べたいと思います。前回は、板坂さんによれば、起業して社長に就いた人は、自分自身を厳しくできるかどうかで、その後、経営者としてのスキルを身に着け、会社の事業を軌道に乗せることができる人と、自分を律することができず、業績を低迷させたままの人に分かれることから、板坂さんは、自分を律するためのひとつの方法として、毎日、ブログによる情報発信を行うことをお薦めしているということについてご説明しました。
これに続いて、板坂さんは、事業を継続させるには、「想い」が大切であるということについて述べておられます。「世の中に生まる企業のうち、7割が、1年以内に消えてなくなる。それがなぜかと言えば、起業した動機が金儲けだからだ。主語が『金儲け』だから、まわりの人からの協力が得られない。逆に、1年以上続いている会社の社長は、なんらかの『想い』を持っているはず。ところが、日々の売上を追いかけ、支払いに追われているうち、起業したときの想いも薄まっていく。
例えば、2人の独立希望者がいて、あなたがどちらかに創業資金の一部を出資するとしよう。1人は、地元の飲み屋のやり手オーナーで、『僕は飲食業界のカリスマになりたいんですよ、ゴージャスな店にして、キャバクラの王になりたいんです』と自信満々。一方、もう1人は、飲食業未経験の農家のあんちゃんで、『子供のアトピーがひどかったんで、無農薬野菜を作るようになったんですよ、そしたら、子供のアトピーがよくなったんで、これを全国に発信したい、そんな飲食店を作りたいんです』と、おっとり話した。あなたは、どっちに金を出すだろうか?
イケイケの飲食のマネージャーに出す人は、『出資して儲けたい』と思っているはずだ。出資者と社長の関係になったとき、お互いを結びつけるのは『金』と『金』。金の切れ目が縁の切れ目になる。生真面目な農家のあんちゃんに出資する人は、アトピーに苦しむ家族を助けたいという『想い』に心を動かされたはずだ。もちろん、レストランはうまくいかないかもしれない。それでも2人の関係は続いていくはずだ。私は金儲けを否定しているわけではない。言いたいのは、金儲けだけで商いは続かないということだ。会社の経営は、『想い』と『経済力』の両輪があって初めてうまくいく」(91ページ)
板坂さんがご指摘しておられるように、「お金」よりも「想い」の方が大切だということは、ほとんどの方がご理解されると思います。一方で、現実には、「お金」もないと困ってしまうということも現実だと思います。私がこれまでお会いしてきた経営者の方の中には、「想い」を実現はしたいけれど、当面は、事業活動を軌道に乗せるために、「お金」を優先して活動しているという方もいましたし、その方の考え方も理解できます。
一方で、口では「『想い』を実現したい」といっておきながら、実際には「お金」最優先の経営者の方にお会いすることもあります。そして、板坂さんもご指摘しておられるように、そのような方は、顧客や仕入先などとの関係が、損得だけの付き合いになり、もし、自社の業績が苦しくなったとき、支援の協力を依頼しても、あまり応じてもらえなくなるでしょう。だからこそ、「無農薬野菜を生産し、アトピーのある子供が安心して野菜を食べられるようにしたい」というような、社会課題解決型の事業をすることが、自社の経営を安定させることになると思います。
ちなみに、自社の事業活動を通して、社会的課題を解決することを目指す考え方を、「CSV(Creating Shared Value)」といい、2006年に米国の経営学者のマイケルポーターが提唱しています。ちなみに、中小企業白書2014年版では、自社のオフィススペースを地域のイベントのために貸し出している不動産会社、車椅子タイプのシートを搭載した車両を導入したタクシー会社、低料金の路線バスを走らせることにより、地域を活性化しているバス会社の例などが紹介されています。
このCSV経営は、単に、社会貢献を会社の負担で行うということではなく、社会的課題を解決することが、市場のニーズを満たすことになり、事業を発展させることができるというものです。もちろん、このCSV経営も簡単に実践できるわけではありませんが、会社が社会的存在になっている現在に適した経営の考え方だと思います。したがって、現在、どのような事業展開が望ましいか検討している会社は、このCSV経営の実践を手がかりにしてみることをお薦めします。
2024/5/19 No.2713