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赤字の受注をしなければ赤字にならない

[要旨]

阪神佐藤興産では、赤字の工事を受注しないことにしているため、赤字になることはないそうです。そして、すべての従業員が原価計算ができるため、もし、赤字の工事を受注した従業員がいれば、「なぜ、こんな仕事の受け方をするのか」と、説明を求めるようになっていることも、赤字にならない要因のひとつとなっています。

[本文]

今回も、前回に引き続き、阪神佐藤興産の社長の、佐藤祐一郎さんのご著書、「小さくても勝てる!~行列のできる会社・人のつくり方」を読んで、私が気づいたことについて説明したいと思います。前回は、阪神佐藤興産では、経営計画書を個人の実行計画まで落とし込み、それを3か月ごとに検証しながら、従業員の方のモチベーションを高めており、その結果、同社の従業員の方は、会社の経営計画において、目標達成のために、自分は何をすべきかを考え、コミットメントできるようになるといった成長が見られたということを説明しました。

これに続いて、佐藤さんは、従業員の方たちの会計リテラシーを高めることによって、赤字の工事を受注しないようにしているということを述べておられます。「建設会社、改修工事会社は、仕事があるのに、なぜ、つぶれてしまうのか?答えは単純です。社員は社長の『受注してこい!』という号令のもと、一所懸命に受注に走ります。ところが、その注文のうち、一定の割合は赤字での受注だからです。

社員としては、どうしても受注したければ、値引きするしかありません。だから、社長が社員に受注してこいと号令をかけるほど赤字になってしまうのです。これを売上至上主義経営と言います。しかし、受注によって売上が上がったとしても、粗利がなければ、ただ、しんどい思いをするだけで、自分たちの給料も出ません。これでは、つぶれることは目に見えています。私は、『売上を上げろ!』と指示したことは、1回もありません。戦略会計を導入する当社では、赤字仕事とわかっているのに、注文を受けることはありません。

たとえ、億単位の売上が計上できる場合でも、それは変わりません。当社では、『ここでは損になるけれど、別のところで稼がせてもらおう』という考え方はしません。赤字仕事は受けないのです。なぜなら、社員全員が見積書を確認することができ(中略)、戦略会計における粗利益の額を意識しているからです。誰かが赤字仕事を受注しようものなら、『なぜ、こんな仕事の受け方をするのか』と、説明を求めるでしょう。そのような仕組みができあがっているので、当社はつぶれない会社なのです」

佐藤さんが述べておられる「戦略会計」( http://tinyurl.com/ycxhhxh9 )は、私はあまり詳しくないのですが、管理会計に基づく原価計算の手法のようです。私は、原価計算は、必ずしも、佐藤さんのように「戦略会計」を利用する必要はなと考えていますが、いずれにしても、従業員の方が原価計算を理解していることで、「どんぶり勘定」で受注してしまい、後になって、それが赤字だったことが分かったということを避けることができます。とはえいえ、私は、従業員の方全員が原価計算を理解していることが望ましいと思いますが、社長や幹部が理解しているだけでも、赤字受注を防ぐことができると思います。

阪神佐藤興産の場合、佐藤さんが赤字にならないと説明している根拠は、赤字の工事を受注しないようにしているからということであり、それは、必ずしも、すべての従業員の方が原価計算を理解している必要はないからです。もちろん、多くの従業員の方が原価計算ができる方が望ましく、同社の場合、従業員の方が受注をする段階で、赤字になっていないかを確認できたり、他の従業員が赤字の工事を受注していないか、お互いに牽制し合うことができる状態になっています。

話しを戻すと、「阪神佐藤興産が赤字にならないのは、赤字の工事を受注しないから」という、極めて単純で当たり前のことをしているからです。ところが、このような単純で当たり前のことも、佐藤さんがご指摘しておられるように、実践できていない会社は少なくないようです。そこで、直ちに、すべての従業員が原価計算をできるようにすることまではできないとしても、まず、社長と幹部だけでも、原価計算をできるようにしておくだけでも、赤字になることを防ぐことができると、私は考えています。

2023/12/16 No.2558

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