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マッターホルン型ではなくプラトー型

[要旨]

IBMを再建したルイス・ガースナーは、会社の成長を考える上での基本は「安定成長」の追求であり、これを言い換えれば、「緩やかに、かつ、継続的に成長することによって、成長のプロセスで生じる歪みを最小限に抑える」ということと述べています。そして、このような経営を「プラトー型モデル」と呼び、「高原」のようななだらかな曲線を描く成長こそが理想であると主張しています。

[本文]

今回も、前回に引き続き、経営コンサルタントの遠藤功さんのご著書、「経営戦略の教科書」を読んで、私が気づいたことについて述べます。前回は、文具の通信販売をしているアスクルは、当初は、親会社のプラスの通信販売を担う事業として開始されましたが、標的顧客である中小企業と接触していくうちに、購買代理人の役割を期待されるようになり、販売代理人としての役割を180度転換したということについて説明しました。これに続いて、遠藤さんは、会社は安定成長を目指すことが望ましいということについて述べておられます。

「株主から預かった資本を有効に活用して、新たな高値を創造し、収益を生み出す。それが経営者に与えられた責任であることは言うまでもありません。その責任を果たすためには、現状に安住することなく、常に新たなビジネスチャンスに挑戦し、未来志向で成長を追求していく必要があります。しかし、挑戦にリスクはつきものです。新たな分野に出て行けば、過去の成功で培った“土地勘”や経験が活きず、失敗する可能性があります。多角化を推進すれば、複数の事業をコントロールするのに四苦八苦する場合もあるでしょう。そうしたリスクを極小化しながら、成長を模索しなければなりません。

企業の成長を考える上での基本は、『安定成長』の追求にあります。言い換えれば、『緩やかに、かつ、継続的に成長することによって、成長のプロセスで生じる歪みを最小限に抑える』ということです。IBMを再建した、ルイス・ガースナーはこのような経営を、『プラトー型モデル』と呼んでいます。つまり、『高原』のようななだらかな曲線を描く成長こそが理想であると主張しているのです。その対極にあるのは、『マッターホルン型モデル』です。

ガースナーは『槍のごとく尖ったマッターホルンのように、売上高が急伸する会社は、そのプラス要因が失われたときに急降下する。急降下、急拡大は株主やユーザーから歓迎されない』と述べています。といっても、すべての急成長を否定しているわけではありません。特に、立ち上げ時のベンチャー企業は時代の波に乗り、急成長する例がよく見られます。勢いが企業を発展させるのも事実です。ただ、『急成長は経営に歪みをもたらすリスクがある』ことを常に認識しておく必要があります」(136ページ)

私は、「プラトー型モデル」の説明を読んだときに、伊那食品工業の塚越会長が提唱しておられる、年輪経営について思い出しました。同社では、「成長は必ずしも善ではない、急激な成長は組織や社会、環境に様々なゆがみをもたらす、それは、社員を幸せにはしないだろう」という理念のもと、かつて、「(同社の主力商品である、かんてんぱぱを)1981年に販売を始めたところ、大手スーパーから全国展開の話が舞い込んだが、全国販売が実現すれば、売り上げは一気に増えるので、幹部の誰もが賛成したが、塚越会長は申し出を断った」ということがあったそうです。

私は、需要が伸びたときに、それに合わせて事業を拡大することが、必ずしも間違っているとは限らないと、かつては考えていました。しかし、近年は、VUCAと言われるように、経営環境が不透明な時代こそ、塚越さんが考えるように、需要に合わせて事業を拡大することはリスクが増えると考えるようになりました。それは、ガースナーが述べているように、「緩やかに、かつ、継続的に成長することによって、成長のプロセスで生じる歪みを最小限に抑える」ことができるからです。

確かに、需要に合わせず事業を拡大しないことは、収益機会を逃すことになります。しかし、それは、組織の歪みを大きくすることにもなり、事業を急拡大して得られる利益より。大きな潜在的損失をもたらすかもしれなくなるからです。また、繰り返しになりますが、VUCAの時代は、組織的な活動の優劣でライバルと差をつける時代です。そうであれば、組織の歪みを最小限にすることを最優先すべきであると、私は考えています。

2024/3/31 No.2664

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