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この異世界は異世界じゃない〜第十二話〜

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➖決断の代償➖

「吾郎さん、咲子さん。晴さんは、幸せになれると思いますか?」

「「……」」

 俯く二人を見た旭は、覚悟を決めた。

「増税」がなんとかなれば、晴さんは、影沼家に行かなくていい……だとすれば、俺に出来ることは……

 『晴さん?もちろん、全力で守りたいと思っているよ。幸せになってもらいたいからね』……レイメイに言った言葉が、頭をよぎる。

 旭は、提案した。

 その内容は、二人には想像も出来ないものだったに違いない。二人の涙を見ながらも、レイメイの顔が脳裏に浮かぶ。

『レイメイ。一人暮らしになったら、一緒に住んでくれないかな?』……レイメイに言ったもう一つの言葉が、頭をよぎる。

 ごめん、レイメイ……とにかく今は、晴さんを助けたいと思ってる。

結城ゆうき〜!結城、あさひ〜!」 

 外が騒がしい。だが、聞き覚えのある声。あまり聞きたくない声だ……影沼隼人かげぬまはやと、晴が影沼家に行ってそんなに時間は経っていない。

 おそらく、晴に聞いたのだろう。俺がまだ、居候していること……それに逆上し、暁月家を訪れた……そんなところかな。

 旭が、玄関を出ると、暁月家の前で、馬にまたがる【ヤチホコ・ハヤト】と目が合う。

 ハヤトの鋭い目つきから視線を外し、横で俯くはるに、「おかえり」と告げた旭は、晴の手を取ると、自分のほうへ引き寄せた。

「「――!」」

「え?旭さん……」

「晴さん、俺は彼と話があるから家の中で待ってて」

「でも……わたしは……」

「大丈夫だよ。もう影沼家に嫁ぐ必要は無い」

「アァッ!?今、なんて言った!影沼家に嫁ぐ必要が無いって聞こえたんだがっ!?」

 声を荒げ、馬から降りて近付いてくるハヤトを、手で制した旭は、【ヤチホコ】であるハヤトに臆することなく、立ちはだかる。

「どうやら身分を分かっていないようだなぁ〜、結城旭。しかも影沼家に嫁ぐ女に、触れるとは覚悟出来てるんだろうなぁ!」

「もう、嫁ぐ必要が無いからね。晴さんは、お前のものでも何でもないんだ」

「なにぃ!おい、晴!貴様……なんてけがれた女だ!影沼家に嫁ぐ身でありながら、こんな男にこびを売っていたのかぁ!」

「ちっ違います!そのようなことは決して……」

 ハヤトにかけ寄る晴に、手を伸ばした旭は「晴さん待っ……」と言いかけた。

 最後まで言えなかったのは、バシンッと大きな音とともに、平手打された晴を抱きとめたからだ。

「晴さん!」
「だ、大丈夫です……」

「影沼ぁ〜!」
 抱きとめた晴の肩から手を離し、ハヤトの胸ぐらを掴みかかろうとする旭は、護衛の従者に押さえつけられる。

「結城旭……【ヤチホコ】の俺に、歯向かうとどうなるか、分かってないようだな」

 旭は、従者に両腕を掴まれたまま、立ち上がると、ゆっくり近付いてくるハヤトを睨む。

 ズンッと鈍い音とともに、腹部に突き刺さるこぶしに悶絶する旭。

「――ぐっ!」

「目立つを行動するなと言っておいたはずだが、この【ヤチホコ】の女をたぶらかすとはな、ボコボコにしてやるよ」

「やめてください、影沼様!旭さんは、この「クロズミ領の病」から人々を救った恩人なのです!」

 晴の声に反応するように、街の人々が集まってくる。見渡すと、ハヤトや従者を囲むほどだ。

「【ヤチホコ様】、旭さんは阿木先生のお連れですよ!」
「旭くんは、クロズミ領ではどうしようもなかった病から、俺たちを救ったんだ!」

「「そうだ!」」

「みんな……」

 街の人たちが声を揃えて言ってくれる……【ヤチホコ】という立場の者に意見をするなんて、恐ろしくて勇気のいることだろう。

 俺のために、こんなにもたくさんの人が……ありがとう。

「貴様ら〜!」
 激昂したハヤトに対し、拘束状態の旭は、街の人々の声により、冷静さを取り戻した。

「影沼……暁月あかつき家の「増税」の件だが、俺が軍に志願するから、晴さんの縁談の件は無かったことにしてもらう」

「――え?」

「なんだと!どうして暁月家の問題に貴様が関係ある!」

「俺が、暁月家の「養子」になったからだ。これで俺が軍に入れば、暁月家は「減税」対象になるはずだ。ということは、晴さんは、嫁ぐ必要が無い」

「そんな……旭さん……わたしのために……どうして」

「くっ……晴!俺との縁談を断るつもりか!」

 晴へと詰め寄るハヤト……

 俯き、受け入れようとしない晴……

「影沼……もうお前の婚約者でもなんでもないんだ、晴に近付かないでもらえるか」

「くそぉ〜!結城……アサヒ〜!」

 バキッと砕ける音がする!ハヤトの蹴りにより、旭の肋骨が折れたのだ!

 旭は、激しい衝撃により従者の腕からは解放されたが、ふき飛んで壁へと激突する!

「がはっ!……」

「旭さん!」

「「――なんてことを!」」辺りがざわつく。

 倒れた旭を抱きしめる晴……

【ミツハノシズク様】の申し子になんてことを、バチ当たりな……と街の人々からも、そう言う声が聞こえる。

「ハァ!?【ミツハノシズク様】の申し子だと!?そんなこと、あるはずがないだろう!バカバカしい!……これで終わったと思うなよ!結城旭……軍に入れば、もっとシゴいてやるから覚悟しておけ!」

退いたか……ふぅ……ふぅ、痛い……覚悟しておけって……もうめっちゃ痛いわ!でも……これで、晴さんは救えるはず。

 旭さん、旭さんと、泣き叫ぶ晴の頭に手をのせる。ふふ……二人でよく泣いたなぁ……「晴、もう大丈夫だよ」そう言うと、痛みにより意識が飛んだ。

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

「「ヨ〜シ!」」響く弓道場。的中の掛け声。

「あっちゃん、皆中かいちゅう!これで全国だぁ〜!」(皆中とは、弓道の世界で全射的中のこと)

「晴、お待たせ〜」
「ホントだよ!あっちゃん、みんなに囲まれて人気者〜。すんごい待たされたぁ」

「全国決まったからね。さすがに、みんな盛り上がってるよ!」
「あっちゃんのおかげだけどね〜」

「そんなことないよ。みんな調子良かったし」
「だって、あっちゃんこの大会、一射も外してないよ」
「まぁ……的前まとまえでは外さないかな……歩射かちゆみではどうか分かんないけど」

 的前……現代の弓道で一般的な射法
 歩射……その名の通り移動しながらの射法

「え?……やっぱり万全じゃないの?……肘は?」

「ふふ、晴、もう大丈夫だよ!」

「ホントに?」 
「ああ、歩射かちゆみでも外さないよ!」
「へへ、だよね。あっちゃんは天才だもん。あっ……もぉ、頭に手をのせないで、子供じゃないんだから!」

「あれ?晴……泣いてるの?」
「えぇ!……だって嬉しくて、去年のことがあったし、あっちゃんの晴れ舞台……天国のお父さんも喜んでるよ、きっと!」

「ふふ……吾郎さん。天国でルール覚えたかな?」
「ふふふ、天国でも横断幕作ってるよ!」

「まぁ、大会ならいいかも」
「じゃあ、帰って仏壇で伝えとく!……え?」

「……うん、よろしく」

「もぉ〜……あっちゃんまで泣いたら……わたし……我慢できないよぉ……」

「……ごめん」

♦︎♢♦︎♢♦︎♢

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