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この異世界は、異世界じゃない〜第二十一話〜

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➖決着...そして➖

ゆっくりと立ち上がるフジナミの巨体から笑みは消えない。口に溜まった血を吐き出して旭を睨む。

「もしやお主は……伝説の【カイヒャク】なのか?あの「神」に滅ぼされた「セツナの一族」の……」

「俺は、結城旭ゆうきあさひ。普通の人間だよ」

「水に風……もはや斬ったはずの傷も癒えている……クククク……とんでもない拾い物だ。こんな小規模な戦いで、お主のような者に出会えるとは……「神」にしか出来ないと言われた【悟社ごしゃ】……人として鍛え上げたこの我が、『武の神』として到達してみせよう!」

「【悟社】?……」

「【悟社】も知らぬ【カイヒャクの卵】か……いいだろう教えてやろう!」

「【悟社】とは神のみに許された決戦の権限だ!発動すれば、まさに独壇場!我とお主だけの「場」が現れそこでの我はまさに『武の神』となる!」

「『武の神』?そんなものが存在するのか?」

「なるのだよ!我が新たな『武の神』に!ヤヲヨロズに存在する【五神】と肩を並べ、六神として君臨するのだ!」

「それが「ミツハノシズク」と「シナトベノ・エイフウ」だと?」

「そうだ!【ツクヨミノ常闇とこやみ】、【アマテラスノ斜陽しゃよう】、【カグツチ・カイジン】……そこに我が入る!」

 皆が「神」と崇めている者に……?つまり、【五神】はマジックアワーのようなチカラを使っているんだな……。レイメイは?彼女は「神」ではないと言っていた。【五神】とはいったい……。

「それで、アンタにもその【悟社】が使えるということなのか?」

「普通は無理だろうな、だが目の前に【カイヒャクの卵】がいる。ここで、この瞬間に無理なら我には一生無理だ。よってチャンスなのだよ、今このときがな」

「俺がいると出来るっていう理論がよくわからないけど、もう退いたほうがいいんじゃないか?アンタはもうボロボロになってる」

「ガハハハ!あまい!……あまいぞ!この我に勝てるやも知れぬときなど、もうないぞ!」

「退くなら、もちろん何もしない……だけど戦うなら、この戦……もっとたくさん命が失われる……そんな気がする」

「【カイヒャクの先読み】か……望むところだ!我は最強、ヤチホコ・フジナミ!【悟社・創槍想地獄そうそうそうじごく】!」

 くうに刺した大槍が稲光いなびかりを伴って、ガラスのように空がひび割れていく。

「なんだ!これ」

 空が割れ、地面が隆起して、見上げると薄明よりも薄暗い空が現れる!

 生き物、植物など存在しない地獄のような世界!

「ガハハハ!出来た……出来たぞ!これで我も「神」の仲間入り……『武神フジナミ』の誕生だ!」

「この圧力……体が重い……」

「ここは我の【悟社】だ。お主の体が重いのは当たり前!我にはチカラが漲るぞ!」

「――がはっ!」

 バキバキと旭の横腹に衝撃が走る!息が止まるほどの衝撃!

 水の皇の水圧で守られていたはずの身体に、フジナミの拳が突き刺さる!

 一瞬で距離を詰められていた……さっきまでのスピードの比じゃない!「風の皇・市」で距離をとる!

「――な!?早い!」

 風の皇で瞬間的に移動した旭の動きに、ピタリとついて来るフジナミ!凄まじい速度で振り抜く大槍が風圧だけで旭の「水の鎧」を剥ぎ取る!

「――ヤバい!」

 死……、一瞬頭をよぎる。……が、レイメイの顔が頭に浮かぶ……死にたくない。俺は死にたくない!全力で生きる!

 背中に担いでいた弓を瞬時に引いた!

「風の皇・航」を矢に集束させる……フジナミは二撃目を振り抜こうとしている……振り抜かれたら即死……だが凄まじいスピードのフジナミがよく見える!

 矢に集束させた風が螺旋状に巻いていく……お……重い……だがこの距離……外さない!

 バキィっと弓が折れたと同時に放たれた矢は、フジナミの大槍ごと右手を消し飛ばした!

「ぐぁぁ!」

 フジナミの絶叫が【悟社】の空間に響き渡る!

 その絶叫とともにひび割れた悟社の世界は、バラバラと崩れていく。旭とフジナミは再び戦場に戻ったが、投げ出された二人の身体は空だ!

 落下する二人……。

 旭は自らとフジナミに風の皇のチカラを使う。風のチカラで落下速度は軽減されたが、フジナミがそれを拒む!

「敗者に情けをかけるな!」
「……」
「我は満足したのだ!ひとときでも「神の頂き」に達した自分に!」

「……いくら敵でも……、一緒に落下してたら助けるだろ!」
「フッ……変わっておるな……だが、どのみちこのまま助かろうが片腕が無い。いずれ殺されるくらいなら、今お主に負けて死なせてくれ」

「……じゃあ、一つ試させて」

「――試す?」

「治癒の皇・航!」
 風を集束させたとき、ものすごい威力だった……もし治癒でも可能なら、広範囲の「航」を集束させたら……もしかしたら。

 光に包まれたフジナミの腕が復元していく。宙を舞い、欠損した腕すらも復元してみせた旭に、驚きを隠せないフジナミの口から言葉が漏れる。

「なんてことだ……すべてのことわりすらも凌駕する、このチカラ……これが始まりの神と言われた【カイヒャク】」

 その瞬間、風の皇の効果が消えた!

「あれ……チカラが……悪いフジナミさん、落ちる……使い過ぎたみたい」

「――ぬっ!」

 まだ高さ10メートルほど残したところで、二人は同時に落下していく……。

 ドンッと地面に叩きつけられた旭は、無事ではすまない覚悟をしていた。しかし無傷。筋肉のクッションに守られていた。

 下敷きになったフジナミに意識はないようだ。早過ぎて何が起きたか分からなかったけど……俺を庇ったのか?意識は無いけど息はしてる……。それにしても頑丈だなこの人、俺の下敷きで、この高さの落下を背中から落ちて気絶だけなんて……恐ろしい。

 立ち上がる旭は、圧倒的に攻め込まれた自軍を目撃する。フジナミとの戦いはそれほど時間が経っていないようだが、指揮が無い状態がこれほどの戦力差を生むなんて……「薄明の刻」は続くが俺にチカラはもう……。

 押し寄せるナカソネ軍。悠たちの意識も戻らない……このままでは、ジリ貧で全滅!

「――ん?あれは、なんだ!?」

 その時、両軍の東側から現れたのは、薄明により、ぼんやりとしか確認出来ないが100人を超える別部隊。

 丘の上から、旭たちの戦いを見下ろすように立ち並ぶ!

「だ……第三勢力!こんな時に!?」

その部隊が一斉に攻撃を開始した!それは弓でも銃でもない……「マジックアワー」!

 火・風・水の遠距離攻撃で、ナカソネ軍に攻撃をしている!それは一方的だった、あっという間に戦況はひっくり返る!

「な……どういうことだ?あれはマジックアワー……そんな軍が存在するなんて……」

 旭は驚愕するが、明らかにこちらを攻撃してこない。ナカソネ軍を蹂躙する謎の部隊にも、弓が届いているように見えるが、まったく臆することなく攻撃を繰り返す。

 そして、敵軍は撤退を開始したのだ。

 その際に聞こえてきたのは……【黄昏たそがれの義賊】という言葉だった。

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