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この異世界は、異世界じゃない〜第二十話〜

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➖旭vs最強➖

フジナミの凄まじい一振りは、飛び交う矢も、ものともせずに風圧で弾く!先陣にいるサルタたちは血飛沫とともに吹き飛ぶ!

 戦場を楽しむかのように暴れまわるフジナミ!

 そこへ迎え撃つは「ヤチホコ・ハヤト」!

「ヤチホコ・フジナミとお見受けした!覚悟〜!」

 先陣の中、猛烈なスピードで切り込むハヤトの斬撃に対し、気にする素振りすらなく一閃するフジナミ!

 他のサルタ同様に風圧による斬撃で数メートルも吹き飛ばす!

 一撃で白目を剥いたハヤトの姿を見て、驚愕する旭の部隊!

 まさに瞬殺とはこの事だ。猛然と襲いくる恐怖にクロズミ領の部隊はひるむ。

「こちらまで届くぞ!近接の準備だ!」
 悠の号令に旭の部隊は槍を構える。

「影沼が一瞬でやられた!あれはなんだ!」
 旭が尋ねると皆が口を揃えて言う。

「「「最強のヤチホコ、フジナミ!」」」

「そんな……初陣であれに遭遇するなんて……」
 その朱里の言葉には怯えのようなものが感じられる。皆の表情からもそれが伝わる。レイメイが言っていた不安要素はこれか……まさかいきなり出会うとは……。

「アタシが引き受けるわ!結城は下がって!」

 美月がそう言うと、覚悟を決めたように望が「任せろ!」と言う。悠さんと朱里も笑顔で頷く。

 4人は覚悟を決めたように俺の前に立った!

「ヤチホコ・ハヤト様がやられた今、この部隊の指揮は我が主に移ります……ですので下がってもらえますか」

 悠さんは俺の盾になるつもりなんだ……いや、みんなそうか。俺がやられればこの戦は敗戦として終わる。今まさに俺がやろうとした事を、相手がやっているだけだ。

 これが戦なんだ。命のやり取りなんだ……。だけど俺は……。

「みんな!相手は俺を目掛けてくる!俺が囮になるからフジナミの背後から弓で攻撃を!近接は絶対にダメだ!」

「「「――!」」」

「なりません!主の命が!」
「旭サマを守るのがウチらの役目だよ!」
「旭!俺たちを信用してくれ!」

「結城……馬を使うのね……」

「さすがだ、美月。騎射で引きつけてフジナミを倒す!」

 騎射……馬に乗ったまま弓を引くこと

「これはみんなを信用しての作戦だよ!いちおう、馬に乗るのは得意なほうなんだ。昔いろいろさせられたからね……俺は距離を保ちつつ馬上からヤツに攻撃するけど、おそらく矢は弾かれる。だけど俺の攻撃に気を取られたヤツの背後ならチャンスはあるんじゃないかと思う……それで……」

「つまり我々4人が後ろから討てと」
美月の言葉は旭の狙いを代弁するものだった。

「うん……卑怯かな」

「戦に卑怯も何もないです!」
「うん、ウチらに任せて!」
「旭が危険なのは気になるが……いざというときはオレが突っ込んででも止める!」

「ありがとう……じゃあみんな、散ってくれ!」

「「「はい!」」」

 皆が脇に外れて馬でかけていく。それを確認した旭は馬にまたがり、狙いをさだめる!

 まずは俺がここにいることをヤツに分からせる。距離は約150メートル……いける!

 クロズミ領のサルタたちを薙ぎ倒して突き進むフジナミに弓を引く旭。

 キーンと高い音とともに、直線で放たれた矢は仲間の間をすり抜けてフジナミの首を狂いなく襲う!

 ガキンと弾かれた矢は、【ヤチホコ・フジナミ】の恐ろしさを物語る。完全に死角からの攻撃、しかも人の隙間を縫うように襲ってくる矢に反応したのだ。

フジナミは不敵な笑みを浮かべると、大声で笑い始める!その巨躯は2メートルをゆうに超え、剥き出しの筋肉は丸太のように太い。

「ガハハハ!味方に当たるやも知れぬなか、恐ろしいヤツがいたものだ!まさに「弓聖」、ひさびさにたぎるわ〜!」

 フジナミはそう言うと、大槍を振り回して砂塵を巻き上げる!辺りは砂嵐のような爆風で視界が失われた。

 人をも巻き上げる砂嵐から飛び出して来た瞬間、フジナミの腕に旭の矢が突き刺さる!

「ぬぅ!……出た瞬間を狙ったか!素晴らしい反射速度、いざ勝負!」

 マジかよ……腕に刺さったのに……微かに見えた大槍目掛けて弓を引いて当たったけど……効いてない。

 旭は素早く馬を走らせフジナミを引きつける。

「ガハハハ!そこかぁ!」

 フジナミの猛追に対し、旭は馬を走らせながら弓を引く!その姿はまさに流鏑馬やぶさめ

 矢継ぎ早に矢を放つあさひの矢の精度もチカラも凄まじい!

 だが、鋭い斬撃により打ち落とされる旭の矢。

 徐々に距離を詰められるが一定の距離を保ったままの戦い。旭の精度があれば馬に弓を引くことも出来るがそれはしない。

 これでいい……直接フジナミに弓を引くことに意味がある……馬に乗っている限り俺を追うはずだ……もし馬から降りれば部隊の中に突っ込まれて被害はさらに広がる……今はこれが最善だ。

「いい判断だ。頭も切れるようだな、弓聖!だが思ったよりもずっと若い……ではこれはどうだ!」

 フジナミの振り抜いた斬撃が空気を切り裂き飛ぶ!

 まるで、「かまいたち」のように旭の脇腹を切り裂く!

「ぐっ……」旭の脇腹から血が飛び散る。

「むぅ……やりおる」
 フジナミの腕に矢が突き刺さっている。先程と同じ箇所だ。フジナミが飛ぶ斬撃を放つ前に旭が放ったのだ。

 それにより僅かに逸れた斬撃が、かろうじて旭の致命傷を避けた。

「面白い……面白い!」

 興奮を抑えらずに手を広げて、少しかがめていた大きな背中をあらわにするフジナミ!

 よし!ここだ!

「がっ!」

 ザクザクと無数の矢がフジナミの背中に突き刺さる!総勢50人ものサルタの矢がこのときを待っていた。

 旭は脇腹から血を流しながらも、命を奪う矢を放つ!キーンと弦音を響かせた矢は、空気を切りフジナミの右目に突き刺さる!

 フジナミの顔からボタボタと落ちる血は、命を奪うまでには届かなかった。その最強のヤチホコは寸前で矢を掴んでいたのだ。

「そんな……掴むなんて……」

 旭は驚愕する。

「見事……見事だった……ここまで我を追い詰めたのはお前が初めてだ!」

 笑みを浮かべたフジナミは、そう言うと、背後から打ってきたサルタたちに向けて凄まじい一振りを放つ!

大旋風だいせんぷう!」

斬撃の「つむじ風」が、サルタたちを斬り刻んでいく!

「みんな〜!」

 吹き飛ぶサルタたちの中に悠、望、朱里、そして美月が見える……上空に打ち上げられた者達は落下とともにおそらく絶命するだろう……それほどの高さまで舞いあげられたのだ。

 しかも「つむじ風」の斬撃により、全員が斬られ意識も無いように見える……。

 それはまるでスローモーションのようにゆっくりとした「刻」を感じた……。

 死……身近な死……。

 脳裏をよぎる先程までの、みんなとの会話……やりとり……。

 死なせない……もう誰も失いたくない。

 【薄明の刻】……マジックアワー……『風の皇・航』

 吹き飛ばされた50人ものサルタたちが落下していない!

「つむじ風」は、かき消され……宙に浮いた状態だ。

「――なにっ!どうなっている!?……ぐおぉ〜!」
状況を理解出来ずに困惑するフジナミを突風が襲い、巨躯なその体を数十メートル吹き飛ばした!

「マジックアワー……【治癒の皇・航】」

 「風の皇」により身体が浮遊した旭は、馬をその場に留め、風に乗り瞬時に宙を浮いたままのサルタたちのもとへ辿り着くと、全員に治癒を施す。

 皆の意識までは戻らないが、傷は癒え、自らの傷もキレイにふさがっている。

 旭は風を操り、50人ものサルタたちをそっと地面に下ろす……。そして振り返ると……。

 数十メートル吹き飛ばしたフジナミが、禍々しい闘気を纏い地に足をつけて、こちらへ向かってくる。

 一歩一歩が巨人のように足跡を残し向かってくる姿は、怒りや喜びが混じるかのように見える。

「ガハハハ!まさか……まさか……【シナトベノ・エイフウ】様の申し子か!?クククッ……いい!……いいぞ!沸る、沸るなぁ!」

「――【シナトベノ・エイフウ】?」

「「弓聖」だと思っていたが、まさか「神」と戦えるとは……クロズミ領がこんな隠し玉を用意してるとはな……これは各領土が攻め込むのも時間の問題か」

「――各領土が!」

「ガハハハ!チカラは恐れを生む。大きすぎるチカラは消されるのだよ!「神」にでもならない限りな。まぁ、我も最強のヤチホコとして、幾度となく返り討ちにしてきたからな」

「消される……?でもここでお前を倒せば誰も俺のことは知らない」

「ほぅ、我を倒すか……つまり人類最強になるというのだな」

 フジナミと旭が対峙する。圧倒的な体格差、パワー、スピード、戦闘技術とどれをとっても勝てる要素はまったくない。

 が……今は「薄明の刻」。神にも等しいチカラ……レイメイはそう言っていた。だったら人類最強も倒すことが出来るかもしれない。

 前線では統率のとれないクロズミ領がナカソネ領と交戦中だ。時間はない……早々に決着をつけて指揮をとらないと!

「よそ見している暇はないぞ!」

「――!」

 ガッと地を蹴る音とともに、一瞬で距離を詰めたフジナミの一振りが、旭の首に届く!

 が、身体中に巡らせた「水の皇・市」の水圧により、槍の刃が喉元までは届かない。

「むぅ……これは……どういうことだ」

 次の瞬間、旭は手の平を前に突き出しフジナミの腹部目掛けて「風の皇・市」を放つ!

 ボッと空気が圧縮された「空気砲」が、筋肉で覆われたフジナミのみぞおちを撃ち抜く!

「ぐふっ!……」

 巨体がひざまずき、旭は風に乗り距離をとる。
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