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この異世界は、異世界じゃない〜第十四話〜
これまでのお話はこちらです
➖千平美月は面倒くさい➖
「旭と一緒に【サルタ】になれるなんて、嬉しくて泣けてくる……うう……」
「はいはい、望!アンタ、旭サマから離れなさい!旭サマが、困ってるんだから」
「朱里、お前も無礼だぞ!旭さんの腕にまとわりつくな!」
「うるさいわね、悠!旭サマは、アンタだけのものじゃないのよ!ウチだって立派な【アサヒノカミ】に仕える一人なんだから!」
「……」
そうだった……この三人と同期になるんだった。まぁ、知り合いがいるのは、ありがたい。
だけど、【アサヒノカミ】なんて呼ばれるのは、まずい。名前に神をつけるなんて恥ずかしいし、調子に乗ってると他の【サルタ】もしくは【ヤチホコ】に目をつけられたら。スローにライフを過ごすなんて夢のまた夢。
ただでさえ戦争に参加するんだ。あまり目立つ行動はしないほうがいい。影沼の動きも気になるし。
こうも三人がべったりだと目立つんだよなぁ……とにかく、【アサヒノカミ】だけはやめさせないと。
旭は、クロズミ領の中心にある【クロズミ城】へと来ている。
朝の【薄明の刻】は阿木の手伝いをし、早く終わるとレイメイに会っている。基本的に、レイメイとがっつり会えるのは夕刻の薄明だ。
こっちに来ての旭は、かなり忙しい。本人はスローライフなんて言ってるがスケジュールはいっぱいだ。
[暁月家→阿木診療所→レイメイ(時間があれば)→軍に参加→レイメイ→暁月家]
だが、旭にとって夕刻の【薄明の刻】が一番の楽しみであり、それがあるから頑張れる。そんな感じだ。
今日から【サルタ】として軍へと入隊し、訓練を行う。クロズミ城に来たのもそれが理由だ。
クロズミ城といっても城の中に入っているわけではなく、広大な敷地内にいるという感じだな。
この広場に集められた新入隊の【サルタ】たち、知った顔も何人かいる。知った顔といっても、前の世界での話だけど……同級生、もともと、友達が多いほうではなかったから顔を知ってる程度だけど。
「ちょっとそこ邪魔よ!一箇所に集まらないでくれる!」
ハァ……こっちでも絡んでくるのか、千平美月。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「ちょっと、結城!矢取り、変わりなさい!」
矢取り……射場で放たれた矢を回収すること。
部活などでは、入部したばかりの後輩などが、矢を集めたりする事は多いが、的前に立てる人数は限られるので、交代で矢取りを行ったりする。
「いや、俺はまだ八射しかしてないし、お前、矢取り、全然してないだろ?」
「アタシはいいのよ!それに、結城の矢取りなんかしたくないわよ!」
「俺のはいいから、他の人の矢取りをしたらいいだろ?」
「ハァ?なんでアタシが、自分より下手な人の矢取りなんか、しないといけないのよ!」
「ふぅ……じゃあ、代わろうか」
「何よ!その、やれやれ、みたいな感じ!俺は大人だから代わってあげるぅ、みたいな感じ出されたら、アタシがやりにくいじゃない!」
えぇ?面倒くさいヤツだなぁ。どうしたいんだよコイツ……
「勝負しなさい!」
「またか……」
「何よ!またかって!この間、もう俺が勝っただろぅ、とか思ってるんじゃないでしょうね!?たった一回の勝負で、アタシに勝った気にならないでよね!」
「……わかった、みんなの邪魔にならないように「射詰」でいいか?」
射詰……一射ずつ矢を放ち、失中したほうが負けという、いわゆるサドンデス方式の勝負
「ふん、アタシがすぐに外すとでも?」
「そうだな……たしかに、長くなりそうだな。お前の的中率は高いから」
「――な!そんな褒めても手加減しないんだからね!」
「いや、褒めてるというか事実を言ってるだけで……」
「ふぅ〜ん、あっそう!そんなにアタシのことを高く評価してるんだ!いい心がけね。まっ、それがたとえ、負けた時の言い訳だとしてもね!」
ウザいわぁ……なんか、いちいち決めつけつるんだよなぁ、コイツ。
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「くっ……結城!アンタ、どうしてずっと外さないのよ!オカシイんじゃないの!心の中で、コイツ自分から勝負を挑んだくせに大した事ねぇなぁ、とか思ってるんでしょ!」
「いや、思ってないけど。むしろ綺麗な射技だと思ってるよ」
「――な!き……き……綺麗って……そんなの結城に言われたって、嬉しくないんだからね!」
「ただ、「会」をあと1秒保てたらもっと安定するかもな、一概には言えないかもだけど」
会……矢を口元で保持すること。弓を引いた状態でキープしている感じ。
「そんなの、わかってるわよ!アンタが怪我でいない間にアタシが天才だって、注目されてたのが気に入らないんでしょ!……良かったわね、勝負に勝って上から目線で指導出来て!……さぞ、気持ちのいい優越感でしょうね!」
「……」
はぁ……千平美月……コイツは本当に面倒くさい。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢
「すみません、邪魔ですよね。望、朱里、悠さん、そういうことだから離れて」
旭は、小さな少女に会釈する。やっぱり千平美月か、こっちの服装がよく似合っている。こっちの人間なんだから当たり前か……小柄だが、勝ち気な雰囲気でいつも絡んできてたな……