8/4(木) 焦燥。
初めて彼女に対して不安を覚えた。
いや、厳密に言えば今後の自分にとてつもない不安を覚えたのだ。
二人の想いがずっとこのまま繋がったままなのか。そんな不安もないことはない。互いが、ないしはどちらかが「好き」という感情を相手に対して失って仕舞えば、繋がりは解けてしまう。
けれど、今言っているのはそこの不安要素ではない。
僕が、この先何も見えない暗闇の中を進んで、未来を繰っていけるのか、という不安だ。
彼女は僕への誠意を込めて、他の男から電話がかかってきたこと、などを僕に教えてくれる。彼女から電話をすることはないが、人望が厚い彼女はよく人からLINEや電話を持ちかけられることが多い。それを僕がよく思わないことも彼女は知っていて、「後から電話したことがバレるくらいなら…」と僕に逐一教えてくれる。いつもなら、「嗚呼、そうか」。その程度の少しの荒み具合で済んでいた。しかし、今回は違った。
元カレから電話がかかってきたらしい。電話時間は10分ほどだったらしい。短い。普段そういうことを彼女から聞いたときは少しの荒み具合で落とし所を見つけられていた。
でも、今回は大打撃を喰らった。
一度は惹かれ合った二人。元カレと彼女が付き合っていたときの話も少しは耳にしていた。
元カレも当時からあった彼女の援交癖、肉体関係、おじいちゃんに体をいじられる事に頭を悩ませていたようだ。彼女曰く頭ごなしに「何故拒まない?」と怒られたらしいが。
だが、分かる。そう言いたい気持ちが痛いほど分かる。けれど、自信を持って言い切れる。それは間違いであったと。元カレが彼女の心の内部まで、どれほど逡巡できていたかは知らない。けれど、彼女の心の回路のエラーに気付けていたのならば、そんなことは口にできないはずである。そこに関しては僕は元カレより一歩先を行った、と言えるだろう。
そんな自負さえあるはずなのに、僕はそのことを聞いた夜、取り乱してしまった。一人で夜の町を徘徊し、想いは僕と彼女の未来の話には留まらず、自分の過去を嘆いた。
僕には強迫性障害を患い、全日制高校を中退してしまった過去がある。通信制に移り、今大学に通っているが、その過去はとてつもない僕のコンプレックスだ。
失った時間は大きいとさえ思ってしまって、止め処ない。堰を切ったように想いが溢れるが、涙は出ない。一生をかけて彼女に寄り添い、二人で居ると決めた未来にとてつもない不安を抱く。僕が破綻してしまわないかと恐ろしく、今こうやって悩んでいることすら不甲斐ない。こんなことはこの先沢山あるだろう。これ以上の衝撃が僕を待っている。それでも、彼女を繋いでいたいと心の底から思ったはずなのに…
なんとかその夜を越え、友達とゲームをしたり、と気分を紛らわせながらつぎはぎで泳いだ一日。その最後に彼女からのLINE。
「すき」の一言。僕から好きと伝えてそれに呼応する形で送られてきたのではない。彼女が自発的に想いを放った一言。涙が出そうになる。けれど、まだ涙は出やしない。でも、そのとき、確かに、視界が少しだけ澄んだような気がした。
その後から心は鮮明で、頭の中も整理された感覚があった。この先「うまくやれるか」「破滅してしまうか」。その二択をその段階で絞ろうとしていた。けれど、どっちつかずの宙ぶらりんのままで良いのだと気付いた。そこに二人を繋ぐひとつの感情があるのならば。脆いだろう、弱いだろう。想いに未来を託すのは。
でも、気付けたのだ。僕らを救う何かは、僕らの中にあるのだと。