1)_22年前の鴨居玲
鴨居玲の展示を、新宿中村屋の美術館で観た(*1)。
個展を訪れるのは7年ぶりということもあり、開催前から気忙しかった。
開幕早々に駆け込んだ展示は、
小規模な中にもエッセンスが詰まったラインナップで、
「再会」に満足した。
展示の中に、パレットがあった。
周縁部に絵の具が分厚く蓄積し、岩のようになった塊の只中に、
画家の自画像が描かれている。
笠間日動美術館が収める、画家のパレットの一大コレクションからの一点である。
筆者が初めて鴨居玲の作品に出会ったのもまた、この美術館だった。
当時通っていた学校の「芸術鑑賞」で訪れたのである。
市内の工房で陶芸体験をした後、焼き上がるまでの間、ということだったと思う。
滞在時間が1時間という無茶なスケジュールで、味わえたとは到底言えないが、
広い敷地内、コレクション展示を慌ただしく行き過ぎた後に、
幸運な出会いがあった。企画展示の鴨居玲展(*2)である。
その時の息を呑む強烈な印象は、今も生々しく憶えている。
宙づりになった人物像や、窓のない教会の異様なありさまにつられて、
それらに対峙した筆者は、目と頸だけになっていた。
ごく限られた時間のことだったけれど、その時の感覚がどうしても忘れられず、
笠間での展示終了後、巡回先の富山の新聞社に電話を掛け、図録を取り寄せた。
他に、エッセイ本(*3)と評伝(*4)も購入した。
当時の自分としては随分と思い切った買い物だった。
今でも時々読み返しては感慨に浸っている。
(絶版となっているのが実に勿体ない。再版は叶わないものか。)
またいずれ、大きな回顧展でどっぷりと絵画の空間に浸かりたい。
(*1)「鴨居玲展 人間とは何か?」中村屋サロン美術館、2022年9月14日〜12月4日
(*2)「没後15年 一期は夢よ 鴨居玲展」笠間日動美術館、2000年11月1日〜12月17日(他、石川・富山・兵庫に巡回)
(*3)鴨居玲『踊り候え』(風来舎、1989年)
(*4)瀧悌三『一期は夢よ 鴨居玲(日動出版部、1991年)