試用期間延長による自殺労災は厳しい判決?|迷想日誌
札幌地裁の札幌東労基署長事件判決(労働新聞12月7日号3面に詳細)は、使用者にとってはなかなか厳しいものでした。
病院に従事していた看護師の自殺と試用期間延長や患者からの苦情などの心理的負荷との間に相当因果関係を認めて、不支給処分を取り消しました。
この看護師は、もともと「きつ音」を有し、病院側でも特別な研修を行うなど、相当な苦労を伴って、成長させようとしていた経緯があります。その対応は、決して差別的、威圧的なものではなく、本来業務をうまく遂行できるようになることを目的としたものでした。その姿勢は、決して不当ではないと思います。
最大の問題は、試用期間の延長が心理的負荷「中」とされ、さらに患者から苦情を受けていたことについて、同じく心理的負荷「中」とされ、全体として、この看護師に精神障害を発病させる程度の強度と認定されてしまいました。
業務に内在する危険が具現化したと判断されたのです。
しかし、使用者の立場に立つと、納得がいかないでしょう。病院では、3カ月の試用期間中の人事評価で、3段階の最低評価「1」を一つでも取ると本採用にできない仕組みとなっていました。
この看護師は仕事の速さについて「1」と評価されました。
このため病院内で相談した結果、試用期間を1カ月延長することになりました。
併せて、看護師に対する成長への支援は引き続き行なっていくことを決めたのです。
企業経営を長く行っていれば、試用期間後本採用すべきかどうか迷う労働者が少なくないと思います。
その際、すぐに本採用拒否、つまり解雇するか、あるいは試用期間を延長して成長を見守るか、どちらかになると思います。
今回の事案では、「長い目で見ていこう」と、看護師側に立った対応をしたと考えられます。
しかしこれが裏目に出て、心理的負荷を与えてしまったと認定されてしまいました。
どんな人事評価結果が出ても試用期間後に本採用しなければならないことになれば、採用自体を慎重にして、事実上採用を絞るしかなくなります。全体として、それで良いとは思えません。
労働新聞編集長 箱田 尊文
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