僕の名前はそんなに悪くない 物語#8 2085字
今日のような雨の降る秋の日。
僕の名前は初めて僕の名前になった気がした。
今日も人の少ない電車の中。
同じ高校の制服を来たのは僕と君だけ。
「今日さぁ〜数学のムラオカさぁ、ガチで
ウザかったよ〜?ちょっとぐらいカラーリップ
塗ったって良くない!?」
彼女の名前はリナ。
彼女とは高校からの付き合いである。
自分は県外から来ているので、一緒に登下校する人は居ないと思っていたのだが入学初日の帰り道にたまたま同じ制服を見かけて、話しかけてみたのが馴れ初めである。
まぁ馴れ初めと言うのだから、今は彼女と…ね?
「え〜?ちょっとぐらいいいじゃんね。
そっちのほうが可愛いのに…うちの高校、校則
厳しすぎるんだよ。」
僕はリン。
漢字は凛と書く。
この名前は少し嫌い。
別に特段嫌と言うわけではないが、少し女々しいと言うか…
この名前でいじられたことはないが、
将来オッサンになった時の事を考えたらこの名前だとなにか違和感が…というのがある。
「まぁ、リナがメイクしちゃったら皆授業に
集中できなくなっちゃうから仕方ない。
だってこんなにも…」
二人の距離が近づく。
お互いの瞳孔が見えるぐらいに近づいた時、電車のドアが開いた。
いい雰囲気だったのにビックリして
離れてしまった。
もう10月なのに暑い。
特に背中の方がものすごく暑くて、汗が滲む。
多分、温暖化のせいだろう。
絶妙な空気になりながらもリナが話しかけて
くれたのでその空気はすぐに入れ替わった。
今日もリナと二人きりで帰る。
いつもと違うのは各駅停車に乗っていること。
途中の駅で降りて行きたい所があるらしい。
「今日行きたい所ってどこなの?」
「んー、ナイショ。」
「え〜ケチだなぁ。」
なんて他愛のない会話をしてる内に目的の駅に
着いた。
駅を出た目の前にショッピングモールがある。
「今日はあそこに行く!」
思ってたより普通の場所で拍子抜けしてしまい、
「お、おぉ…」
と少しだけ苦笑いした。
いや別にそういう何かを期待してたとかそういうわけではない。
ショッピングモールの中は平日だからか少し閑散としている気がした。
彼女は色んな店がある中、一直線に向かったのは服屋さんだった。
非常にまずい。
なにがまずいって僕はファッションセンスが絶望するほどに無い。
それが女性の服となったらもう…
「ちょっと服は…
自分ファッションセンスないよ?」
「ん?だから来たんでしょ。」
「え?どういうこと?」
「今日はリン君の服を買いに来たんだよ。
一回インスタで見たんだけど…ちょっとリン君の服があまりにも独創的すぎたから。」
そういい、君はクスクスと笑った。
「そういうことか…まぁいい服選んでくれたら今バカにしたことは水に流すよ。」
「まっかせて!でも…
一回自分で服選んでみてよ!」
「ものすごい無茶振りしてくるな…
いいだろう、完璧な服を選んでやる!」
そう言って素早く服を選んで試着室で着た。
「その服…クク…とってもいいと…思うよ…クスクス…」
そう言ったあと、彼女は堪えきれずに大笑いした
「リン君って女の子っぽい名前なのにそういう所全く無いよね!」
僕は"女の子っぽい名前"と言う所に引っかかりながらもショッピングを楽しんだ。
その言葉を頭の片隅に残しながら。
今日は途中の駅まで歩いて帰ることになった。
僕のスマホの充電が切れてしまったからだ。
現金も持っていないことも無いが、1駅分足りなかったのでその駅まで歩くことにした。
リナは電車に乗ることもできたのだが、一緒に帰りたいと言うのでその駅まで歩くことになった。
ただ、今日は10月らしい気温で結構肌寒い。
スカートを履いた君は寒くないのかなと思い、足をぼーっと眺めていた。
「どこ見てんのよ!」
と言わんばかりに君がこっちを睨んでると
気づくまでは。
「リン君ってさ…」
リナが急に言い出す
「ちょっと女の子っぽいところあるよね。」
「そうかな?」
「名前とかさ、あとすぐに照れる所とか!
名前に引っ張られてるんじゃない?」
ふざけながら君はそう言う
僕の頭の片隅にあった突っかかりが大きくなった
「なに?名前になんか文句あるのかよ。」
「そういうの気にするところもね〜クスクス」
僕の頭の中いっぱいいっぱいに広がる感情。
今までいじられたことが無かったからこその
初めての怒り。
「俺は好きでこの名前になったんじゃねぇ!」
つい声を荒げてしまった。
「え…ごめんなさい…私そんなつもりじゃ…」
「…悪い、先に帰ってくれ。今は…ちょっと一緒に居たくない…」
そういうと君は何も言わず足早に行った。
少し見えた君の顔は寒かったのか少し赤かった。
今日は雨が降っている。
秋雨前線の影響だろう。
駅までは少し歩かないといけないのだが、
傘を家に忘れていた。
仕方がないので今日はお母さんに迎えに
来てもらおうと思い、連絡を入れた。
そして近場のコンビニまで行こうとした時、リナが下足室に居た。
だけど君は背中を向けたまま何も言わなかった。
僕もその時、逃げるように下足室を飛び出した。
雨、それは全てを水に流してくれる。
辛いことや悲しいこと。
それと同時に幸せなことや嬉しいことまで。
さようなら。
また、どこかで会えたらいいね。
僕の名前はリン。
悪くない名前だろ?