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2019J1第19節 横浜Mvs浦和@日産ス



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マリノスは、天野純が移籍して去ったこのタイミングで扇原貴宏が5/31湘南戦以来の復帰。頼もしい男がベストなタイミングで戻ってきた。
また、前節に引き続き、右SBには和田ではなく広瀬が入った。

一方の浦和。大槻監督がどのような対策を施してくるのか、5-3-2にするなど陣形を変えて臨んでくるか、といった憶測が戦前に飛び交っていたが、いつもの5-4-1できた。柏木、武藤といった主軸を怪我で欠き、夏に獲得した関根は登録の関係でこの試合には出場することができない。


【浦和の必殺技”困った時の橋岡”に対して】


浦和には武器がある。それは、GK西川や3CBが繰り出す高精度フィードと右WB橋岡の長身(182cm)を活かしたプレス回避だ。

橋岡は、2018シーズンにおいて、73.8%とリーグNo.1の空中戦勝率を誇っている。この数字は、単純に彼が空中戦に強いことはもちろんだが、使われるポジションがウイングであることに深く関係している。一般的に、サイドに身長の高い選手を置くチームが少ないからだ。俗に言う”マンジュキッチロール”と言われるやつである。

マンジュキッチロールとは、元ユベントス監督のアッレグリが編み出した戦術。高身長で空中戦に絶対的な強さを誇るマンジュキッチをサイドに置き、身長の低い相手SBと競らせることで攻撃の起点とする。

実際に、この試合の開始20秒で西川から橋岡にロングボールが送り込まれ、空中戦に弱いティーラトンにあっさりと競り勝ち、こぼれ球を拾って攻撃につなげるシーンがあった。


このミスマッチの状況を受け、マリノスは即座に対応を見せる。西川が蹴るゴールキックの際に、ティーラトンと扇原のポジションを一時的に入れ替え、上背のある扇原(184cm)と橋岡を競らせることで浦和の強みを消しにかかった。この対応は、前半7分のシーンで既に見られており、その迅速さには舌を巻く。おそらく試合前から予め練られていた対策ではあるのだろうが。

これによって浦和の攻撃の起点を無効化したことは、前半のハーフコートゲームの構図を創出するのに一役買ったと言える。


【前半の攻防】

前述したように、前半はハーフコートゲームが展開されていた。この点、浦和は自陣深くに5-4-1のブロックを形成していたため、押し込まれることは許容した上で、キープ力に優れた興梠を起点としたカウンターによってチャンスを作ることを狙っていたのだろう。

前半のスタッツを見ても、マリノスのボール支配率が73%と高く、さらにシュート数12-0と大きな開きがあることから、試合がほとんど浦和陣内で展開されていたことがわかる。


ここから、試合の中身、とりわけマリノスの攻撃パターンについて検証する。前半のマリノスの攻撃パターンは、大きく分けて二つのパターンに分けられる。


①”5バックを4バックに”(遅攻でのアプローチ)

自陣深くにブロックを敷いて守る浦和に対する崩しのアプローチである。ゴール前を固めて守るチームをパスで崩すのは、それ相応のスキルとチームとしての共通理解を要する。

では、マリノスの選手たちが持っていた共通理解とは何か。

それは、浦和の5バックと4枚のMFとの間のスペース(いわゆる”ライン間”)で起点を作り、そこで浦和のDFを釣り出し、最終ラインにスペースを空ける、というものだ。
そもそも最後尾に多くの人数をかける5バックというシステムの構造上、中盤や前線で数的優位を作られやすいため、5枚のDFは最終ラインでじっと構えているのではなく、前に出ることが定石となっている。浦和のDF陣は特に、前に出て守備をする傾向が強い。

マリノスは、これを逆手に取った。

これが立て続けに表現されたのが、前半7分の攻撃のシーンである。このシーンでは、3度にわたって浦和のライン間に縦パスを入れるなどして浦和の5バックを釣り出し、スペースを創出してチャンスを作っている。

※1つめ

ティーラトンからパスを受けた扇原が縦パス。ライン間で降りて受けるエジガルにマウリシオ出て対応。エジガルは右サイドに展開。


※2つめ


1つめの流れでマウリシオは釣り出されたまま。扇原が喜田からのリターンを受けてやり直し。広瀬経由でライン間のエジガルへ。エジガルに対して宇賀神が前に出て対応するもボールを受けた喜田がフリーでセンタリング。

この場面では、本来ファブリシオが喜田をフリーにさせないように戻る必要があったはずだ。(逆サイドの長澤は同じような場面で戻れていた。)試合を通じて、ファブリシオの守備に問題があったのは明らかであり、時間帯によって興梠とのポジションチェンジを頻繁に行なっていた。


※3つめ

ティーラトンからエジガルへの楔のパス→エジガルは遠藤に落とす→遠藤が橋岡を引きつけることで出来たチャンネルSBとCBの間にできるスペースのこと)に走り込むティーラトン→センタリングから決定機

1つめから3つめに至るまでの時間は20秒ちょっと。

ライン間へ縦パスを入れるために、横パスを織り交ぜることで浦和の中盤をスライドさせ、パスコースを創出している。喜田と扇原、さらに偽SBのポジションを取るティーラトンと広瀬がポジションを入れ替えながら、テンポよくパス交換をすることで、前線の選手(この3つのシーンは全てエジガルが縦パスの受け手になっている。わずか20秒の間に左右に動いて3度も縦パスを引き出せるエジガルはやっぱり異次元…)にパスをつけるタイミングを伺っているのだ。

こうした共通理解のもとに、主にサイドからのセンタリングによってチャンスを作り続けたマリノスだったが、ここから得点が生まれることはなかった。また、縦パスをカットされてカウンターを食らうシーンもあり、この崩しのアプローチは、守る浦和にとってもチャンスとなり得るものだった。


②ショートカウンター

では、マリノスはどのようにしてゴールを奪ったのか。それは、ショートカウンターだった。

敵陣でポゼッションをする中でボールを奪われた瞬間、即時奪回を目指してプレスをかけてボールを再奪取したところから、前線のスピードを生かしたショートカウンターによって多くのチャンスを作った。

遠藤渓太の先制点もこの形から生まれた。ボールを奪われた瞬間に扇原が長澤に寄せ、連動してティーラトンが橋岡にプレスをかける。そこで橋岡のミスを誘い、ボールを奪ったティーラトンはハーフスペースで待ち構える遠藤へ鋭い斜めのパス。受けた遠藤は華麗なターンからシュートを放ち、今季初ゴールを決めた。

相手が人数をかけてブロックを形成する前に速攻を仕掛けてゴールを奪うショートカウンターは必要な攻め手である。今後も練度が高まっていくことに期待したい。


【後半:浦和のプレッシングと横浜のビルドアップ】


防戦一方となってしまった前半を受け、後半の浦和はボール非保持のアプローチに変化を加えてきた。

自陣深くにブロックを形成するのではなく、マリノスのビルドアップに対してプレスをかけることで、高い位置でボールを奪いにきた。

しかし、噛み合わせ上浦和の5バックに対してマリノスの3トップがピン留めをすることで、後方でキーパーを含めて8vs5の数的優位の状況になる。この状況ではプレスをかけてもハメきることができず、マリノスは易々と前進することができるだろう。

そこで、大槻監督は、システムを4-1-4-1に変更。CBのマウリシオを一列前に出し、アンカーのポジションに据えることで、プレスの圧力を強める方策を採用した。また、そのマウリシオをマルコスにマンマークで付け、ライン間でボールを受けるマルコスを消しにかかった。

これに対し、マリノスはショートパスに固執するのではなく、朴のフィードや畠中の中距離パスのセンスを活かして前進していく。

浦和のプレスを剥がし、綺麗に擬似カウンターを決めたシーンが2つある。

※49分のシーン

①マウリシオにマンマークをされるマルコスは下手に動かずピッチ中央に
②畠中からミドルパス
③アンカー脇のスペースに降りて受けるエジガル→レイオフ
④エジガルと同タイミングで降りてくる遠藤→エジガルが受ける瞬間にフックの動きで方向転換、エジガルのレイオフを受けてスピードアップ


※78分のシーン

試合時間も78分経っており、若干浦和のプレス強度が落ち、チアゴや畠中は比較的自由にボールを持てる状況になっている。この場面では、広瀬がライン間のスペースに侵入してボールを受け、カウンターを仕掛けることに成功している。
また、チアゴからのパスを半身で受け、スムーズに広瀬へのパスを通した喜田のプレーは、地味ではあるが素晴らしい。


上に挙げた2つのシーンに共通するのは、マルコス・システムの強みであるライン間で浮くマルコスを消しに来た浦和に対し、アンカーの脇のスペースをうまく活用することで相手の対策を上回っている点だ。マウリシオにマンマークで付かれているマルコスはピッチ中央からさほど動かず、代わりにエジガルがアンカー脇のスペースに降りてポストプレーをしたり、広瀬が一列前に出てフリーでボールを受けたり、といった具合だ。

前回対戦でもあったように、浦和のハイプレスに苦しむ時間帯、場面は散見されたが、うまく剥がしきって速攻につなげるシーンが以前に比べて飛躍的に増えていることはチームの成長を感じさせる。


【冴え渡るネガトラ・露呈した課題】

前節の大分戦同様、この日のマリノスのネガティブ・トランジションは冴え渡っていた。浦和陣内で多くの時間を過ごすことができたのは、ボールを奪われた後の即時奪回が徹底して行われていたことが大きい。

しかし、一度プレスを剥がされ、特に逆サイドに振られると途端に脆さを露呈する。特に5バックのチームが相手では、噛み合わせ上ウイングバックが浮いてしまう。ここにロングボールを通された時に、かなりの確率でピンチを生んでいた。

相手のカウンターになった時、サイドでSBが1on1で対峙する場面が多いのだが、簡単に突破を許してセンタリングを上げさせてしまう傾向がある。浦和に1本もシュートを打たせなかった前半にも、宇賀神やファブリシオの突破からあわやのピンチを招いている。

ここを個の能力に託し、属人的に守るのか、常に数的優位の状況を作れるように組織的に守るのか。


いつか痛い目に合うまでに対処したい課題だ。


しかし、繰り返しにはなるが、後半の浦和のほぼオールコートマンツーマンのプレッシングに対し、長短のパスを織り交ぜ、構造上生じるスペースをうまく使ったビルドアップは大変素晴らしく、そこには目を見張るものがあった。

次戦の神戸も、同じように前線からのプレッシングを仕掛けてくる相手であり、今回の試合のようにうまく剥がせるかどうかが試合を決める。美しく、かつ論理的にハイプレスをいなし、ゴールを奪うマリノスに期待したい。




7/13(土)19:00 J1第19節 横浜3-1浦和


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