怪人物
ギョッとする風貌、行動、雰囲気のする人物。その「ギョッ」が、記憶にこびりつき、恐怖というか、不快というか、そういう部分に立ちはだかるような人物をきっと怪人物と呼ぶのだろう。
日本刀のおじさん。これは、小さい頃住んでた場所の近くの公園の前にあったアパートに、おそらく住んでいたんだと思うが、白い肌着の上下にベージュの腹巻きをして、坊主頭で青白い肌色をしており、なによりその特徴は、日本刀を手にしていること。それを抜いた状態で、振り回すでもなく、フラフラとそのアパートの2階廊下を歩いているわけだ。その姿が、滑り台に登るとよく見えた、と言うだけだ。何度も見た、というのでなく、一度きり。警察にでも捕まったのかも知れない。
水晶玉のおばはん。高校の時、友人が行方不明になり、まあ、家出だが、誰かが占い師に探してもらおうと言い出したので、商店街の水晶玉やカードを使うらしい占い師のところへ行った。700円。友人の特徴や生年月日(誕生日は忘れたので、適当に俺の誕生日を伝えた。じゃあ、水晶玉ね。と、綺麗な玉を覗き始め、しばらく何か短く浅く息をするようにパクパクしていたかと思うと、目からビーム、が出てるのでは?という鋭さで、片目で俺を睨みつけ、君の知ってる壊れた車がたくさんある場所にいる、君の誕生日なんだから、、、。って、ちびりそうになったが、はたして、廃車置き場の凹みまくったハイエースの中にいた。
くすんだピエロ。これがいちばん記憶に残っている。母さんと買い物に行った帰り、電車に乗り込み座席に座ると、対面にフワッと異様な白さ(何が白かったのか忘れた)のおばさんだかおじさんだかが座った。両手にはデパートの紙袋。ビニール紐で補強してあり、中には雑多なものが詰まっていそうなかんじ。俺たち親子は釘付け。うちの母さんはそういうのをまじまじと見て、場合によっては声かけるタイプの人だが、さすがに黙って見ていた。すると、紙袋からコンパクトと口紅をとりだした。マッチ棒も。口紅を塗り直すんだなと思った。ふつうそうだろう。口紅をひねって紅の部分になんと、マッチの軸をぐりぐりし始めた。それを、ひび割れたようなその唇ではなく、鼻の頭に塗り始めた。鼻の頭に。そして、コンパクトの鏡を見ながら唇を、んぱっ、んぱっと。あの口紅をなじませるやつをした。母さんも俺も目が点。母さんなんて、俺に肘打ちして、耳元で、見た?見た?と。見たよ!そして、ピエロはニヤリとして、目をつむり、次の駅で降りて行った。いや、ピエロではないんだがね。黒いだぶっとしたブルゾンを着ていて、白いペンキ汚れがあちこちに付いていた。そうか、思い出した。それが白い印象になったんだな。白いサンダルも足につっかけていた。どこへ行くんだろう。
怪人物はいつもそばにいる。