旅、ときどき観光。 

 あまり旅行に出かける家庭ではなかった。隣県和歌山の鄙びた(父がそう呼び、その状態を尊んでいた)海岸「新和歌浦」や南紀白浜に何度か行く程度。あとは両親の実家くらいか。一度、友ヶ島に渡ったり、淡路島に泊まったこともありすごく楽しかった。特に何もしてはいないが。海外旅行など大学生になってから初めて行ったし、東京ディズニーランドは高校の修学旅行が初めてだ。はしゃいだ。

 そんな俺だが、中学生の時も、高校生の時も1人で旅はしていた。自転車で朝から東に向かい、知らない街のスーパーマーケットや商店街を物色したり、本屋に入ったり、工場の横などは自転車を押して歩き楽しんだ。煎餅なんかを焼いてる工場のそばに自転車に座ってぼんやりしたり、川をひたすら下り、運河や埋め立て地に突き当たり、しばらくたそがれ、引き返す。そういう旅を好んでいた。

 高校の卒業旅行はさすがに友人たちで、しかし渋く大分の別府温泉で焼肉を食べ、タクシーで湯布院も行った。暇だったが、フェリーも楽しかったし、夜の街も何をするのかわからず持て余し素敵な時間を過ごした。

 大学でもそうだった。ちょうど「自分探し」などというテーマを設けるのが若者の間で流行っていたが、相変わらず何かを探しに行くなんて真似はしなかった。いや、札幌の時計塔と霧に巻かれた羅臼の町は探した。それも、時計塔も見つけたが見つけたままにしたし、羅臼は港の定食屋に入っただけだった。カラスが似合う町だったな。

 行きたい街なんか特にないが、いろいろ行きたい。一人旅を好むわけでもなく、家族とも、友達とも行きたい。仕事で行くのも好きだ。電車で旅情も風情もなく、なんとなく眠たく目的地に着き、目的を達して、土産など買い、定食屋か居酒屋に行って、帰ってくる。それで十分楽しい。

 幼児用番組で鉄道特集などがあり、我が子が鉄道に興味を持ったのをきっかけに、鉄道の面白さを初めて知り、旅のやや積極的なたそがれ先に鉄道が加わったが、頻繁に出かけるでなく、しかし、時刻表なんかを読んで楽しむ机上旅はするようになった。

 旅といえばグルメか。これは地理的文化的特産物や郷土料理にはすごく興味がある。仕事柄、水産物、魚や貝やエビカニ、海藻の料理には飛びつく。が、調べて行くことはあまりない。それ以外はスーパーの惣菜売り場か。チャーハンはどこに行っても食べに行く。チャーハンにハズレなし。チャーハンという料理を食べたことないだろうというほどの店主が作った、焼きもあまりなく、ペラペラハムが少しの油飯みたいのや和え飯?みたいのでも、名称がチャーハン、焼飯であれば合格だ。外国ですら探して食べる。

 観光してるんだろうか?観光てなんだ?この7、8年、観光関係の仕事?会議に呼んでもらう機会が増えた。光(宝)を観ることだ、と言ってた人がいた。そうかも知れない。その光が光に見えるように、価値をわかりやすくするためのお手伝いをする部分において、視点と説明力を期待されて呼ばれてるんだと思う。が、俺自身はそれに魅力を感じて旅することはほとんどない。分かりやすいものにあまり関心がわかないのかも知れないし、光が見えるような見えないような、それを探すでもなく、眺めるでもなく、かすかな香りのようなものを感じにちょっと見知らぬそこへ出かけてるのかも知れない。雑居ビルやその横の駐車場、空き地にそよぐセイタカアワダチソウやススキ、駅のゴミ箱、鈍行列車、公立高校の裏門、、そういうのは探さないでしょ。でもそういうのを観てる。チャーハンは探してるな。あと、博物館も調べて行く。海岸線も調べて訪れる。

 親しい友達が旅から帰ってくるので、旅の話も聴きたいなと、こんなことをフワッと考えながら食事後の食器を洗っていた。

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