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心拍計と走る

 私の心臓は標準的なものではないそうだ。
 毎年職場の健康診断の度に心電図に異常があるという指摘を受け、再検査、精密検査を指示される。その状態を示す術語は短いのだがやや難解で、実際に自分にとってどんな不都合があるものなのかいまだに理解していない。要は、心臓のある部分に対して、電気信号を発する神経(?)が働いていないのだとか。再検査時、担当医から、普段意識を失ったり、苦しくなったりすることはないか?と問われる。つまりはそのような可能性がある体だ、ということだ。残念ながらそのようなことは感じたことがない。ほぼ毎日10km以上のジョグ、ランニングを継続していることを伝えると、ならいいでしょう、問題ありませんとの返事。これが毎年のルーチンである。今年(2021)の担当医は初めて有体に言ってくれた。「若いうちは問題ありません。年を取ってきたら対応を考えるといいでしょう。今、元気にスポーツを楽しめているのならば、いじる必要はありません。」スポーツを楽しめないほどに体が弱ったとき、私のこの心臓の異常は対応を必要とすることになるのだ。それがわかればよい。体を弱めないように努力すればよいのだから。また、次のようにも情報を与えてくれた。「そもそも、心電図が標準的でない人は少なくない。だから、あまり気にする必要はないのだ。」これを聞いてほっとした。実は、ずっと気になっていたのだ。再検査で問題ないと繰り返し宣告されるものの、毎年結局再検査を指示される、この体はいったい何なのだろうかと。

 この標準的でない心臓のためであろう、胸部に装着するタイプの心拍センサは明後日な数値を測定する。平常安静時、心拍数を手首触診で測定すると50から60程度の範囲である。しかし、胸部心拍センサは180や240などといった数値を出す。心拍センサの位置を心臓に異常のある部分からやや離した部位に装着すると、場合によっては70から80程度の数値を示すが、それでも触診する値とは離れている。この事情によって、心拍センサによる心拍数計測は、ランナーにとって有用なデータなのだが活用できていなかった。学生時代や、社会人となってセンサを入手するまでは、手首や頸部での測定を行っていたが、さすがに走行中にまではしていなかった。データ活用のモチベーションが、測定の億劫さに負けてしまっていた。手軽にこの心拍数データを活用できるのは、まったくこの心拍センサのおかげである。ところが、である。私のこの心臓のために、となる。

 あるランナーのWeb上の記事から、解決に至るのではないかという印象を得た。それは、心拍数計測のためのセンサは、心電センサだけではなく、光学式もあるのだ、ということである。もちろん、近年の腕時計や腕時計型GPSには光学式の心拍センサが搭載されている。これは、胸に装着する心拍センサがゴムバンド状で、ずりおちやかぶれの心配があることや、軽量化を志向するランナーから敬遠される傾向があることから、急速に普及した機能である。手首や腕に装着することで、手軽に心拍数を測定できる。腕時計型のメリットは、心拍センサと腕時計、GPSが一体化することで装備を簡略化できることである。光学式のデメリットは、心筋電位測定タイプに比較すると即応性に劣ることである。心臓の電気信号を測定するタイプは、まさに心拍のパルスを検出するために、数値として表示するまでの時間が短い。もちろん、全くの瞬時値ではなく、何回かのパルス測定を経て、統計的に処理して刻々の心拍数としてデータを確定しているはずである。これに対して光学式は皮下血管の血流量増減を光学的に検出して拍動数を「推定」しているものであろうから、心筋電位測定に比較すれば後れを取ることになろう。ということで、件のWeb上の記事では、そこを理解して光学式を利用すべきだ、と述べている。ともあれ、私の心臓の異常のデメリットを、この光学式測定は問題としないのではないだろうか。そこで、安価な機器で試してみることにした。

  その結果、安静時、運動時の心拍数は触診によるものと差がなく、装着し続けることによって蓄積するデータが、日常生活や運動の改善に有効に活用できると判断できた。これは私にとって福音である。50歳を過ぎ、無理なトレーニングをすることに抵抗をおぼえるようになった。特に、24時間走り続けるウルトラマラソンをするようになってからは、家族にかける心配に配慮しなければならなくなった。ランニング中の心拍、それだけが安全のカギではないが、数あるうちでも有効なカギの一つであると考えている。

 ということで、現在は心拍センサでは定評のあるメーカーの製品を装着してランニングを楽しんでいる。50代以降のランナーの皆様には、GPSまでは必要なくとも、心拍計はぜひともとお勧めしたい。健康な方でも、心臓への強い負荷はよいものではない。私はこれまで、目の前で心停止するランナーを2度見た。3度目は、沿道で応援していた翌日に出走する予定の健康な方だった。いつ、どんな形で心臓の不具合が起こるかはわからないが、平常から計測を続けていれば、異常を予測することができる。そもそも、異常を起こすような過剰な負荷を避けることができる。現代ランナーの私たちは、せっかくこの便利なツールを利用可能なのだから、利用しないという選択肢は選ばないほうが良い。




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