【音の記憶】

先輩のHさんが記念式典会場の動画をアップしていた。ああそうだった。今日はその日だ。動画を見ると、綺麗に整備された平和祈念像の背景に、かしがましい強烈な蝉の声がする。東京では決して聴くことが無い。終わりなく、ものすごい爆音で、360度全方位から、セミの声が『これでもか』と云わんばかりに押し寄せてくる。そうだ、これが『長崎の夏』である。おそらく昭和20年の今日だけは、この蝉の声が聞こえなくなった。

1分間の黙祷をした。その間、実家に思いを馳せる。子供の頃、近所だったので、原爆公園にも平和公園にもよく遊びに行った。当時は、見るも無残な残骸や遺構がそのままの形で、ここかしこに残っていた。いつのまにか、すべてが撤去され、そのかわり綺麗な公園になった。そういえば、優しかった祖父母も、頑固な父も気丈な母も、親戚の叔父叔母も、いつの間にか、みんな向こうの世界に行ってしまった。そしていま蝉の声だけが聞こえる。どうぞ安らかにと願う。