インドネシアロックマニアってホームページあったね 〜IPSが残した音源 2〜
インドネシア初のプログレシッブロック専門レーベルとなったIPS(Indonesia Progressive Society) RECORDは、2002年SONY INDONESIA傘下のレーベルとして遂にCDをリリースすることになる。今回はIPS RECORDからどのようなアルバムが出されたのか、またそれをリリースするに至った背景と現在のバンドの状況などを、エピソードを交え書き残しておく。
IPS RECORDからのリリースされたアルバム
IPS Recordからは、2002年から2010年の間に10枚のアルバムが発表されている。
In Memoriam "The Ultimate *Terrorizing Aura Of Unlogic Mind" 2003年 IPS Record発足前にも既にProgフェスやカフェなどでIPS主催のイベントにも参加していた彼ら。新たなバンドではIPSとして一番押していたバンドのメジャーアルバム第一弾としてリリースされた。プログレというよりは、ゴシックメタルと銘打ったほうがしっくりくる。ただ、ステージは舞踏家も交えたテアトリカルなもので、視覚的な部分も含めてプログレシッブと認識していたのだと思う。
Purgatory ”7:172” 2003年
このバンドは、Rotorcopレーベルから既にCDデビューしていた所謂ブラックメタルバンド。なぜ彼らの2ndアルバムがIPSからリリースされたのか、いささか疑問だったので当時Andy Juliasに聞いてみたら、”Sonyがその手の音楽を出すのには、新しいレーベルのほうが良いということで押し付けられた”といっていた(笑)
Discus ”...tot licht!” 2003年
いわずと知れたインドネシアプログレシッブロックの金字塔。
ある意味IPS Recordは、Discusのために立ち上げられたといっても過言ではないだろう。南ジャカルタのPondok IndahにあったMagantaスタジオで録音されている。 このアルバムはIPSレーベルで唯一海外に向けFranceのムゼアと日本のGohan Recordからデストリビュートされている。
何度かAndy Juliasに連れられ彼らのレコーディングにも立ち会わせてもらったが、たまたま日本から来られていた”尻”Hideki-Hさんを彼らの」練習スタジオに案内した折感激され,後に氏の尽力によりGohan Recordから日本でのデストリビュートが実現したのだった。
このバンドのメンバーKiki,Anto,Ekoの3人は既に鬼籍に入っており、またプロデュサーであるAndy Julias自身も既に他界しており、その当時の緊張感のある演奏を聴けることはもうないが、2002年のあの生々しいレコーディングの現場は、今も忘れることはできない。
Imanissimo ”~Z’SDiary~” 2004年
Imanissimoの正規初メジャー盤として発売された実質彼らのデビュー盤
当時はスペース サイケデリック ロックと銘打っており、浮遊感のあるシンフォニックロックといわれていた。(何のことかさっぱりわからないが)
Imanissimoは、この後ギター、キーボード奏者をメンバー交代しながら現在も活動を続けている。メンバー全員がIKJ卒の芸術家肌であり、全員音楽教員である。Imanもまるで女の子のような紅顔の美少年だったが、今や立派な父親である。
Anane ”The Evolution Ethnic Slebar” 2005年
いわゆる昔からの顔なじみバンドのリリースが続いていたIPS Recordだったが、やはり新たなバンドの開拓が必要だということでAndy自身も多くのDemoや口コミで発掘作業をしていた。
当時のプログレっぽいものといえば、Dream Theaterのコピーバンドから派生したProg-MetalバンドばかりでAndy自身もいささか霹靂としていた状況だったと思う。
そのような中でジョグじゃから送られてきたDEMOテープの中にそのバンドAnaneの音源があったらしい。ジャズフュージョンをベースにジャワの伝統的な楽器を使ったアバンギャルドプログレをミックスしたもので非常に斬新なものだった。
今となっては、このバンドが、IPSとしてワールドワイドにインドネシアプログレを広めていける最後のバンドであったと思える。
Nerv ”ragam” 2005年
DiscusのKiki Calohの紹介で彼自身がプロデュースした作品で、マレー系の独特の旋律とバイオリンを前面に押し出した作品。Ananeのインパクトが強かったせいかあまり印象に残っていない。
Vantasma ”Beyond Fallen Dreams” 2006年
Andy Juliasの朋友だったWillyのバンド、全面良くも悪くもGenesisである(笑)
Ballerina ”Dance of Balet” 2006年
2006年に南ジャカルタのWijaya通りで、Wijaya Festivalという地域のイベントがあり、IPSが主催になって野外ステージのコンサートを行った。そのコンサートには、ImanissimoやVantasma、In Memoriamなど従来からの常連バンドと新たにオーディションで選抜された数バンドが参加した。
応募してきたバンドのほとんどが、Dream TheaterばりのProg-Metalバンドだったが、Ballerinaもその中の一つだった。このCDが発売される前にこのコンサートを私自身見たが、ギタリストのテクニックとボーカリストの歌のうまさに驚嘆したのを覚えている。
しかしCDで出された音源は、曲は良いのであるが、ボーカリストがコンサートの時と全く違う。なんというか汚いのだ 乗りがあれだけよく聞かせていたボーカルが... 本当にもったいなかった。
Makara ”Maureen” 2008年
Andy Juliasが80年代に組んでいたProgressive Rockバンドの再結成。
当時私は、すでに日本に帰国していたがインドネシアのロックアーチストに会うために年に数回インドネシアに渡航していた。たまたま2007年に渡航しAndyに会ったとき、Makaraを再結成し新たなアルバムを作るという。
その足で中央ジャカルタ、マンガライにあるC-Pro Studioで見学に行った。ここは、以前にもインドネシアを代表するメタルバンドEdaneの練習を見に行ったことがあったので覚えていた。
音はともかくAndyが練習中も、レコーディングも終始ご機嫌だったのでこちらも非常に気分がよかった。バンドのレコーデイングの間にスタジオの2階にあるテラスで延々(数時間も)、取り留めないない会話(いわゆる井戸端会議の類)をしながらお茶を飲んでいた。会話は、ゴシップから猥談までよく会話が続くなあと思いながらNew Makaraのメンバーと時間を共にしたのを覚えている。ちなみにタイトル画像の一軒家がC-Pro Studioの全景である。2階に見えるベランダのように見えるのがテラスである。
Christmas Camel Company ”Same" 2009年
IPS Record名義でリリースされた最後のCDである。既にソニーとの契約も切れほぼインディーズのように売られていた。このアルバムは、CC Companyが70年代に録音していて残っていた音源を新たにRE-Masteringしたものである。名前もProcom Halumの曲名からとっており、それを彷彿するようなプログフォークロックである。
あれほど、新人発掘に力を入れていたAndyが、昔の音源を出している。
Discus以来、新たな才能が出てこない状況にもはや疲れていたのかもしれない。当時、IPSそのものにも皆が全く積極的に活動しないことに不満をこぼしていた。それ以降IPSそのものの活動もAndyは、体調のこともあり積極的には参加しなくなった。
IPS RecordとPoseidon
2009年頃だったか、私は2004年に帰国し名古屋で働いていたのだが、ある日、増田洋という人が私に連絡をしてきた。聞くとインドネシアのプログレに興味があるということで会いたいとのこと。
ほどなく、名古屋駅近くの喫茶店で会うこととなった。こちらは例のごとくGiant Stepなどの音源をCDRに焼いて用意してインドネシアプログレに興味を持っていただければいいなと思っていた。
当時、増田さん自身Poseidonレーベルを主宰されており、Poseidonが当時リリースしていた内核の波やInterpose+などのCDをいただいた。
増田さん曰く実際のインドネシアのプログレシーンを見てみたいということで、早速Andy Juliasを紹介した。
そうしているうちに、その当時Prog Nightと銘打ちジャカルタでIPS主催のコンサートを定期的に行っていたのだが、なんと、それを見にジャカルタにくとのこと。(なんたる行動力!)
*おそらくImanissimoやElectric Opera In Memoriamあたりを見られていると思われる*
インドネシアプログレが日の目を見る日が来るのかと嬉々と喜んだものだが、帰ってこられての感想は ”う~ん.....”
そうだと思います。(笑)
結局は、お互いのCD販売の協力関係を作っていきましょうとの言葉のもと、IPSもその後音源も出なかったこともありそのままフェードアウトしていった。
IPS Recordのアウトテイク
ほとんどのアルバムのプロデュースをAndy Juliasが行っていたことより、Andy自身が多くのアウトテイクを持っていた。特にDiscusは何度もトラックダウンしたため数多くのアウトテイクが存在する。私自身 ...tot Lichi!のアウトテイクは数多く持っている。最近改めて聞いてみると後に、リーダーのIwan Hasanが、2010年代に結成するバンドAtomosferの数曲が入っており既に作られていたことなどがわかる。
また他に私が所有するものでは、3バンドのデモを確認している。
VantasmaのWellyが一時期結成したElectric OperaとVotel RoffsそしてMakaraのMaureenだ。Electric Operaは、Wellyが、音楽的なイニシアティブをとっているので、ポンプ色が強いが、よりポップを意識した音となっている。
Votel Roffsはグランジとシンフォニックを重ねたメタルテイストの音、そしてMakaraのはMaureenのトラックダウン前のアウトテイクスだ。
Electric OperaとVotel Roffsの音源は、アウトトラックというより既に完成されたもので、何らかの理由でリリースされなかったものと思える。
尚、Votel Roffsの演奏は、YoutubeのIndonesia Progressive Societyのチャンネルで見ることが可能である。
まあAndyも出す気がなかった音なので私が墓場まで持っていくようにしよう。
IPS Recordからリリースされたバンドのその後
2020年にIPS Recordは、実質的にリリースを休止しその後は独自でのアルバムはリリースしてきていない。ただ現在においても、アルバムをリリースしたバンドやアーチストは形態を変えつつ音楽活動を継続している。
In Memoriamは、その後1枚のアルバムを発表しIn Memoriam名義においては、散発的にライブを行っている。リーダーでありキーボード奏者のReynoldは音楽講師をしながら様々なセッションに参加している。
Purgatoryは2020年位まで活動していたが解散しメンバーはRoxxなど他のバンドに参加しながら活動を続けている。
Discusは前述のように3人が既に亡くなっているが、キーボード奏者 Fadhil,Krisnaはいまだ様々なセッションに参加しており現役バリバリである。ドラムのHayunajiは、銀行員をしながらごくわずかながら音楽活動を続けているようだ。そしてDiscusの核であったIwan Hasanは、大病を患った後も更なる新しい音をいまだ追い求めている。
Imanissimoは、全員が音楽教員であり音楽活動を行う環境はよく。既に4枚の作品を残し、年に数回のコンサートを行っている。2017年、Giant Step復活のコンサートの前座も行っていた。
Makara再結成に関わったオリジナルメンバーKadriも法律事務所で弁護士として業務をする傍ら同じく同アルバムに参加しているJimmoと Kadri& Jimmo バンドでアルバムも出しながら頑張っている。
Andy Juliasの朋友でもあったVantasmaのWellyも様々なイベントで存在感を出している。
ちなみにPendulumのTuriはBekasiカフェを兼ねたでコーヒー店をやっている。いつかTuriが挽いたコーヒーを味あってみたいものだ。
ちなみに今回紹介したIPS Recordの一部のCDはアジアロックの専門店”Asian Rock Rising"で入手が可能である。またDiscus、Imanissimoなどは、Spotifyなどでも聞くことができる。