読むほどに闇が深まる狂気の漫画――『おやすみプンプン』
『おやすみプンプン』(小学館)は、ごく普通の少年・小野寺プンプンの成長を描いたストーリーである。
作者の浅野いにおは映画化もされた『ソラニン』で有名だ。浅野いにおの一連の作品は、上京したての「大二病」心をくすぐり、大学時代の僕に良くも悪くも(?)大きな影響を与えた。
大学1年の頃、すし詰めの小田急線で、近くにいた人が読んでいた第1巻が見え、面白そうだと思った。ヒヨコのような姿の主人公に、原色の装丁。
第1巻には、純粋でかわいらしいプンプンの小学生時代が描かれている。自分にしか見えない「神様」がいたり、同級生の女の子に恋をしたり、友達とちょっとした冒険もする。
どこか異常な世界観も垣間見えるものの、シュールで面白いこの漫画を友達に勧めたら、怪訝な顔をされた。
巻を追うごとに、まさかこれほどえげつなく闇が深まっていくとは思わなかった。
親の逮捕、信じられない大人たち、死、ふさぎ込んでいく感情・・・それでも読み続けられるのは、ラクガキのような主人公の姿が、話の重さをある程度中和しているからだろう。これがリアルな人間の姿だったら、重すぎて読めないだろうし、読者が主人公に自分を投影するのにも、匿名のラクガキの姿は役立っている。
しかし、プンプンを取り巻く状況は、重ね合わせられる人は滅多にいないだろうというほど闇に堕ちていく。シンプルな線で描かれていたコミカルな姿が劇画のように激しく描かれるとき、読者は日常の中に潜む狂気とどうしようもない絶望を感じるのである。
建築学科の製図室で、設計課題のために徹夜しながら、しかし課題には手をつけずに一晩中『おやすみプンプン』を読み続けていたクラスメイトがいた。深夜にそんなことをしたら精神を病んでしまうだろうと思った。彼は今元気だろうか。