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New York Dolls : Johnny Thunders, David Johansen

New York Dolls - New York Dolls (1973)

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 R&Rと言う名の麻薬。やたらとカッコ良く痺れる麻薬。その代表格にニューヨーク・ドールズは君臨している。面白いのは1970年前半頃のニューヨーク・ドールズ現役時代はさほど注目されず、売れる事もなくニッチでマニアックな奇抜変人集団としか思われなかったようだ。そこまででも無いにせよ、ニューヨークなら多少そのセンスと奇抜さがウケて知名度はあったものの、他の都市へ行けばほぼ無名で、ならばいっそ、とロンドンでFacesの前座をやればその奇抜さがかなりウケ、一躍知名度アップしてアメリカに戻りそこそこウケ始めたような話。今見てもとんでもない化粧でケバい集団、更に行動も破天荒でライブも無茶苦茶、当然当人たちの行動もR&RライフストーリーそのままのSex, Drug & R&Rだったらしく、扱いに困った程のようだ。そこにSex Pistolsで有名なマルコム・マクラーレンがマネージャーに就任して更に加熱して一気に崩壊して都合3年程度の黄金期が終焉を迎えたバンド。ところがその頃のアイコン作りが凄かったからか、今の時代でもどこかで見かけるほどにそのロゴはアートとしても知られ、アルバムジャケットにしてもバンド名にしてもいかがわしくすら見える写真も有名な作品として飾られる始末。時代的に考えればウォーホールが佇んでいたニューヨークの時代と近接していたからこそ同じようなアートセンスとして捉えられている部分もあるし、実際カッコ良いしおしゃれだからそれも分かる。「ロックはファッションだ」と、それもありなお話。ちなみにKISSはNew York Dollsを見てああいうスタイルを発案していったとは有名。

 アルバム「New York Dolls」は1973年7月にリリースされているが、その前の年の秋頃のデモテープも発掘されているし、その前の1971年のデモテープすら発掘されてその手の編集盤で聴けるので、バンドそのものは割と早い段階から存在して、方向性もそのまま定まっていたようだ。方向性と言っても音だけを聴いていれば分かるようにストレートなR&Rとどちらかと言えば歌ものに近い作風が並んでおり、70年頃のアメリカならこういった楽曲が奏でられても何らおかしくないレベルで、音楽的にオリジナリティが豊かなバンドではない。ただ、R&Rをここまでカッコ良く仕上げて出していたバンドは無かったのでそのファッションと合わせてカッコ良さ、オシャレさ、クールさが強調されているし、今となってはこれこそR&Rとばかりに個性的に君臨しているから面白い。自分も今回久しぶりにこの「New York Dolls」をじっくりと聴いたが、改めて思ったのはジョニ・サンダースの曲はストレートにR&Rで、デヴィッド・ヨハンセンの曲はそこまでR&Rでもないが、ジョニ・サンダースが大きくアレンジに貢献した、と言うかジョニ・サンダースがギターを弾いているバンドなので、当然の如くR&Rプレイのギターになり、結果的にR&Rバンドになっている、という感じ。それを差し引くとデヴィッド・ヨハンセンのソロ作の歌ものとさほど変わらない曲の本質も見えてくる。有名な「Looking For A KIss」ですら、ジョニ・サンダースのギターがなく、デヴィッド・ヨハンセンが無駄な雄叫びを歌わなかったら思い切りキャッチーでポップなメロディにすらなる、かもしれない。もっともそうはさせないニューヨーク・ドールズらしさがアルバム全編を覆っているのでどうしたってこの若きトカゲ野郎ジョニ・サンダースのセンスこそがニューヨーク・ドールズだったと感じる。

 そのジョニ・サンダースがここで弾いているのはレスポール・スペシャルのダブルカッタウェイともしかしたらシングルカッタウェイもかもしれないが、かなり独特の音だと気づくのに時間はかからないし、これまであまり聴いた事のない音色のサウンドだったのもあって、気になったし、それよりも何よりも単純にカッコ良く痺れたから気に入った、と言う方が正しいが、このギターは好きで探して買いに走った。ジョニ・サンダースもあのギブソンのモデルながら安く買えたからレコーディングを開始するにあたり買ってきたらしいが、なるほどそういう理由だったかと。それでこれだけギターそのものの音色が出せているなら凄い。テクニック的には何ら難しい事もないが、ただただR&Rなギターがカッコ良いところがセンス。プロデューサーのトッド・ラングレン曰くはとんでもなくアマチュアな連中で音楽など知らない単なるお祭り野郎達だった、のニュアンスを語っていたらしいが、なるほど、そりゃそうだろう。その中でのジョニ・サンダースのこのセンスだから更に素晴らしい。そしてデヴィッド・ヨハンセンの歌心も実はかなり才覚あるスタイルで、ミック・ジャガーそのままだったとは言え、独特の毒気はバンドの顔として必要だったし、そもそもバンドがそういう雰囲気で出ているのだから当たり前か。

 各楽曲を聴いているとさすがにトッド・ラングレンプロデュースで、冒頭の代表曲ともなる「Personal Crisis」からして軽快なR&Rピアノが一番カッコ良いが、これも当然トッド・ラングレンだろう。「Lonely Planet Boy」はかなりセンスの良い歌モノで、アメリカの若者らしい作風とも言えるが、とてもそうは聴かれない所もさすがドールズ。エドガー・ウィンターからクレームすら起きるようになった「Frankenstein」もマイナー調のメロディとピアノが美しいR&Rで、馴染みやすいナイスな楽曲。「Trash」も古き良きアメリカの楽曲そのままを再現しているだけに過ぎないが、どこか毒気漂うところとギターがドールズ的。しかしここまでコーラスが上手く出来ているのはどちらかと言えばオールディーズやモータウンの流れが強いと分かるだろう。そして隠れた名曲と言うかR&R曲の「Bad Girl」もお気に入りのスタイルで、これこそニューヨーク・ドールズらしい雰囲気がプンプン漂うカッコ良いR&R。「Subway Train」も古き良きアメリカンスタイルのヨハンセン好みなスタイルだが、所々で自己主張してくるジョニ・サンダースのギタープレイがカッコ良く、ただ聴いているだけでは勿体無いと思えるように仕上がっているのは魅力。「Pills」も「Trash」と同様の印象でこのあたりになるとバンドとしてのスタンスと言うべきかネタ切れと言うか、さすがにR&Rバンドとしてのバリエーションはそこまで広がらないと言うか、ただそれでもカッコ良さはそのままなのでどうしたってジョニ・サンダースのギタープレイに始終する。「Private World」も「Subway Train」と同様のスタイルを継承しており、ドールズ自身の多数の楽曲からファン人気の高い曲を録音したと言われているが、その意味ではこの類が好まれたのかもしれない。最後はこれも単にスピーディでソリッドなR&R曲でしかないが、自分が一番最初にニューヨーク・ドールズで大好きになった曲「Jet Boy」。冒頭のギターの音色もスピーディなリズムもパンキッシュな演奏も全てがカッコ良くて、これこそR&Rと思った事を思い出す。今聴けば当然ながらそこそこ凝ってるしコーラスもしっかりしているし、アレンジも出来ているしギターソロもカッコ良く決まってるし、やはり最強の作品。

 R&Rバンドなどこれで十分だとも思えるし、それを教えてくれているししっかり体現してくれているし伝説のバンドだし、とにかく凄い。歴史に残るだけあって非の打ち所もない、と書きたいが、さすがに年を重ねた今になって聴いていると飽きが来たと言うか疲れてきたと言うか体力が追いつかなかったと言うか、若い頃の若者のR&Rバンド、エネルギーを受け止められる年齢に聴くバンドと思い直した。ただそれでもカッコ良いし、永遠の憧れのバンドに変わりはない。

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好きなロックをひたすら聴いて書いているだけながらも、聴くための出費も多くなりがちなコレクターの性は皆様もご承知の通り、少しでも応援していただければ大感謝です♪