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落語形式で考えよう;報道されてる品質不祥事はマネジメントシステムで防げるってホント?

【第二十九回】 東レの不祥事の第三者調査委員会報告書を考える-前編


熊さん 「チワ-大家さん。」

大家さん 「来たかい、熊さん。」

熊さん 「今日は約束のISO9001の第7条の話しを聞こうと・・・」

大家さん 「イヤ、この前そう言ったけど、つい最近東レにあった難燃性検査データの不適切な扱いについての第三者調査委員会報告書が東レから公表されたんでな、ちょうど東レがISO9001の認証も受けているんで、第7条の話しはこの次にして、これを考えてみたいと思うんだが、どうだい?」

熊さん 「この間の新聞にそんなニュースが載ってたようで。目先が変わっていいと思いヤンス。」

大家さん 「じゃぁ、東レのウェブサイトからダウンロードしておいた第三者調査委員会の報告書をパソコンに出すよな。ヨイショ、と」

熊さん 「随分あるね、66ページかぁ。」

大家さん 「東レといやぁ日本を代表する合成繊維・合成樹脂などを取り扱う大手化学企業で、炭素繊維の開発・販売では世界首位らしいよ。会長が日本経団連の会長を務めたほどの優秀な会社なんだよ。」

熊さん 「そんな優秀だと言われる会社がどんな問題を起こしたんですかい?」

大家さん 「東レは本社と全国13の事業所、工場からなる会社でな、報告書によると、このうち千葉工場で製造するABS樹脂と、名古屋事業所で製造するエンプラ樹脂との難燃性グレードの難燃性評価で起こしたということなんだ。」

熊さん 「難燃性樹脂とやいぁ、アッシらの建築の仕事にも関係ないとは言えねぇでヤンスが、難燃性試験データの書き換えをしていたとかでガンスか?」

大家さん 「難燃性評価の試験ってのは試験片で評価するらしくてな、試験片を水平にしたり垂直にしたりして、端に着火して一定距離が燃える時間や燃え方を観察して行うらしいんだ。だけど、違った試験機関のデータを比べて評価することが難しくてな、アメリカではUL、正式にはアンダーライターズ・ラボラトリーという公的に認められた第三者試験機関の信頼性が高くて、ULの定める評価規格を用いたULの難燃性認証登録を受けて報告するように要求されることが多いんだそうだ。その結果、世界の多くの国でULの評価認証が採用される様になったそうだ。」

熊さん 「UL認証というのは公的な規格で求められているじゃないんですかい?」

大家さん 「製造者がUL認証を受けるのは任意なんだけど、火災保険に関係するもんで、米国ではUL試験を受けて証明書を見せるのが慣習となっているんだそうだよ。」

熊さん 「米国以外の会社はどうすりゃ良いンでガスか?」

大家さん 「ULは主な工業国には現地子会社を持っていて、日本にはULジャパンという会社を開いているんだよ。」

熊さん 「で、東レもULジャパンに頼んで評価してもらってた、ってワケですな。じゃぁ、東レが評価を誤魔化した、ってワケではないんでヤンスネ?」

大家さん 「ウン、実は難燃性評価するための評価用の試験片をULは依頼者に作らせて、それで評価していたんだ。試験片を試験申請者に作らせるって事は、ゴマカシの元だからあまりほめられた事ではないんだ。でも、初回申請のときはまだそれで良かったんだ。だけど、評価結果は評価した試験片のデータに使われるだけでなく、試験片が代表する製品の形式評価として使われるので、初回の難燃性認証がその後生産される製品にも有効だと言うことを確認しないと、難燃性樹脂の買い手は不安になるだろう?」

熊さん 「そらそうでヤンス。」

大家さん 「それで、初回評価をした後不定期に申請者を訪問して、初回評価時に説明を受けた作り方と同じ作り方をしていることを確認した上で、ロットを指定してULでの難燃性試験用に評価用試験片を作成して提出するように要請して工場を後にして、後日送られてきた試験片で評価して確認する、フォローアップ評価っていう評価を行う契約をしているんだ。」

熊さん 「作り方が変わっていたらどうなるんでヤンスか?」

大家さん 「うん、その時は製品が変わっているんだから、新たな銘柄として新たに評価して登録をし直さなきゃならないことになる、って事だそうだ。」

熊さん 「それで、東レはどこで間違いをしちまったンでガス?」

大家さん 「実は、難燃性樹脂ったってもとは石油を原料とする可燃性の樹脂に難燃剤を配合して作るんでな、登録した後、難燃剤として用いられていた臭素やリンの化合物が樹脂コスト低減の一環として見直したり、EUでの有害化合物規制の強化で入手出来なくなったりして配合変更されたり、樹脂本体の原料変更があったりしたんだ。中には、初回評価・登録時に買い手の都合で開発を急いだために、まだ最終配合が決まらないうちにULに評価申請をして買い手に最終配合と違った評価登録証を渡したために、虚偽の評価結果となったケースもあったと報告書は言っている。」

熊さん 「あンりゃまぁ!」

大家さん 「で、本来はUL認証登録を変更しなければならなかったんだが、その場合必要になる樹脂の銘柄変更を買い手に了解させることをためらったためではないかと思うんだが、UL登録変更を怠ったために、フォローアップ審査で変更がないという虚偽の説明を行い、変更前の保存評価用試験片を提出するなどして、虚偽の登録証明を得ていたようなんだ。」

熊さん 「へー、なんでウソがバレてしまったンでスカイ?」

大家さん 「このウソは1980年頃には行われていたと言うことだが、実際に明るみに出たのは2017年に東レハイブリッドコード、略称THCという系列子会社で自動車タイヤなどに使うナイロンコードの試験データの書き換えをしていたという不祥事を内部調査から把握して公表したんだが、これに関連して東レ本体を含む総点検が指令されて、その結果で出てきたんだ。」

熊さん 「デモ、おかしいじゃぁありませんかぇ。知る人は知る、って事じゃないと実際に書き換えが出来るハズがないでガスし、40年の長い間続いていたって事は今のエライさんの中には昔関わっていた人がいたんじゃぁありやセンか?」

大家さん 「報告書はその辺に関してはハッキリさせていないね。昔の事だから客観的事実が捉まんなかったって言うことかも知れないな。」

熊さん 「悪いことは悪いけど、自ら悪うございました、なんて申し出てくる何てのは罪一等を減ずる、なんてことですかね。で、第三者調査委員会はこの原因についてどう言っているンでヤンス?」

大家さん 「関連部署のコンプライアンス意識の不足を第一番に挙げていてな、報告書の中では技術系管理職が、UL規格は民間規格でそれ自体では製品の安全性を保証するモノでないから不適正行為を行う事に抵抗が薄かった、って述べていたことを報告していた。だがな、こんなこと、たとえ言い訳としても買い手がUL証明を求めているという認識が東レに欠けてることに、そして、報告書がこんな言い訳を批判も加えずに載せてることにも、ワシは戸惑いを感じるよな。」

熊さん 「手っ取り早く言ちまって、アッシには買い手との契約の違反、そうだ、ULとの契約の違反も関係者が意識的に放置してた、ってことが直接の原因だと思えヤンスね。」

 (次回に続く) 

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