誰も幸せにならない応援歌に替わる文化を築く
「ナ~イスファ~ルぅ~、ナイスファール…お~ナイスファ~ルぅ~!!」
相手チームがファールを犯した際、この応援歌をあたりまえのようにミニバスケの子供達に謳わせていることに、ボクらはずっと違和感があります。
バスケ経験者にしてみれば、「味方チームが、勝敗のポイントどころで、相手の流れを止めたり、必死なプレーでファールをしてでも止めないといけない場面への賞賛として、ナイスファール!と鼓舞することはある」と必ず反論されます。
このコラムは、「味方チームが」ではなく、「相手チーム選手への」という点にフォーカスしたものです。
◆論点を間違えないでほしい
冒頭記載のことから、もう一度述べます。
味方選手が必死に体を張って止めようとしたが、ファールをした。
もしくは、ここでゲームの流れが相手に傾きかけているので、怪我の範囲にはほど遠い形で故意にファールをする。
こういう自陣味方選手のプレーのことを否定しているのではありません。
前者や、果敢に挑む姿勢が結果的にファールになってしまっただけのことで、後者はもはや頭脳的プレーとも言えます。
そういう場合は、味方ベンチからも「仕方ない!ナイスチャレンジ!」ぐらいの意味合いで、ナイスファールだぞ!と鼓舞することもあるでしょう。
でも、ボクらが常々唱えている論点は「味方のファール」ではありません。相手チームがファールを犯した際に、相手の「ミスを囃し立てるような応援歌」が無意識に歌われていることに違和感があるのです。
「味方」ではなく「相手」です。
この違和感は、娘がミニバスケでお世話になっていた時期からなので、もう15年近くも心に引っかかり続けています。
それが、ミニバスケ試合会場で、「相手チームがファール(反則)をしてしまった瞬間に出る子供たちの応援歌」なんです。
◆常識を疑う勇気も必要
「ナ~イスファ~ルぅ~、ナイスファール!お~ナイスファ~ルぅ~!!」っていうアレ…あの応援歌です。
ミニバスケ会場に足を運んだ人は、一度は耳にしたことがあるこの応援歌…関西弁にしてみると、こうなります。
「ええ失敗や~ありがたい失敗しよった~、嬉しい失敗をしてくれたで~」
そういう意味の歌ですよ。
これ…相手チームへのリスペクトも何も感じられません。
しかも、そんな意味合いで自陣の仲間を盛り上げるって…自分達の日々の鍛錬を試そうという意味合いとは真逆で、あまりにも貧相な発想にしか思えないんですよね。
大袈裟にいうと、本気で楽しくお互いの技量を試し合うスポーツ精神の根底を否定する言葉です。
それを自然体で、子供達の決まりごとのように歌っているということ。
また、バスケ経験者や、バスケ指導者が、何の違和感もなく歌わせているということに、疑問しか生まれていませんでした。
全国各地で、小中学生の大会で、この応援歌が見受けられます。
県大会や府大会、全国大会ですら見らる光景なので、おそらくどの地域でも常識化してしまっていると推察できます。
◆何が恐ろしいのか
ボクらは違和感どころか、少し恐ろしさも感じています。
当の子供達は、味方応援の一つにしか思っていないようです。
意味は大して考えていないし、上級生が歌っているから歌っているという無意識の擦り込みが怖いんですね。
ファールをしてしまった事象…つまり「相手の行為」を歌にしているわけですから…考えてみればかなり「残酷」なんですよね。
チームによって、力量・経験値・スキルの差はさまざまでしょう。
パスカットを試みて、わずかに間に合わず、手を叩いてしまうことが当たってしまう
疲労の中で脚力が伴わず、相手にぶつかってしまう
リバウンドボールをなんとか獲ろうとジャンプを試みても、タイミングや技量が足りずに相手にぶつかってしまう
でもそれは、相手チームにも自分のチームにも起こりえることです。
そうした中で、対戦する両チーム、相手チームがファールを犯すたびに「ナイスファール応援歌」がどんどんエスカレートしていく光景が、どうしても違和感があるわけです。
◆スポーツは戦争ではない
試合に臨むまでの練習環境は、チーム事情によって違いはあるとはいえ、限られた範囲の中で練習をしてきた同士が、日々の鍛錬具合の試し合いをしているのです。
試合は試し合いであり、あくまでもgameです。
スポーツは、戦争じゃないんです。
細かな事を言うと、「対戦」という言葉もあまり好きではありません。
(まあ、「対戦」は、ボクもつい使ってしまう言葉ですけどね)
日頃の、自分の鍛錬の成果を試す場所であり、相手の心身を蹴散らす場所が試合ではありません。しかも、相手チームの存在がいなければ、その「試し合い」すら実現できないんです。胸を借りているわけです。
ボクらのその感覚を投げかけても、「そんな悠長なことを…キレイゴトで勝てるか…」と一蹴する指導者や保護者もたくさん存在しています。
ボクらは、「キレイゴトで上等!」と本気で思っているので、相容れないのなら言い返すことも特にしません。
それでも、少年スポーツは子供達の主体性が育まれる土壌としてあることに「価値」を感じているので、そこの「目的」を見据えています。
試合に「勝ち」を見出して、上位進出するのは、あくまでも「目標」に過ぎません。
「勝つ」ことが目的となり、カラダだけではなく、人への配慮・感謝・気づきの心の育みが目的ではないのであれば、そこの少年スポーツに関わる必要性を感じていません。
ボクが最も皮肉に思った瞬間は、ある地域でイジメ撲滅運動を率先していると豪語する指導者が、自分の指導するチームでは、相手チームのファールを詰るこの歌を平気で歌わせていたことでした…。
◆建設的な提案
さて、ここからは、建設的な提案です。
相手チームの選手が、ファールを犯してしまった瞬間…そこには何があるのかというと…自陣味方チームの「ナイスプレーの積み重ね」があったわけです。
相手チームを慌てさせてしまうほどのナイスパス
相手の脚力では追い付かないほど果敢に前に攻めた積極性
相手が思わず手を出してしまうほどの持久力と脚力
もし、相手チームの子供のファールを誘うプレーがあった場合、その時は自陣味方チームの子に「ナイスイン!」「ナイスチャレンジ!」で良いんでしょうね。
相手チームの子に「ナイスファール」を言う必要性は一切感じません。
審判の笛が鳴り、相手チームのファールをコールされた際、まずその瞬間に自陣味方選手への鼓舞として…「ナイスチャレンジ!」「ナイスパス!」「ナイスイン!」を称えることのほうが先ではないでしょうか?
要は、「自陣味方チームを鼓舞する応援だけに徹する」
これだけをしていれば、いつの間にか相手を侮蔑する応援がなくなる気がするんですよね。
◆禁止にするよりも文化にする
それと、もう一つの提案は、「ナイスファール応援歌は禁止します」では、根本的解決にはならないということです。
特にミニバスケや中学生など、ルールや規約で禁止にしても、本質が理解されていないと、また起こりえることになります。
「オトナに注意されたからナイスファール応援歌は歌わない」…これでは、何ら「気づき」による行動変容にはなっていません。
今、チームで「ナイスファール応援歌」を使っているならば、ご指導者からでも、場合によっては保護者会からでも、子供達に「その応援はどうなんだろう?」という投げかけで、「対話の機会」を作って頂きたいのです。
子供達の主体性が育まれる土壌づくりをテーマにして、ミニバスケを使った親子ワークショップを運営する【躍心JAPAN】という任意団体があります。
ここでも、勝利至上主義や恐怖政治体制を敷く古き「ブカツ文化」に対して、アンチテーゼを唱えるだけではなく、ボクらのあたりまえと感じる「育みの目的」に沿ったテーゼをつくることのほうが大切と感じています。
ルールや規約を創るのではなく、子供達から「私達のチーム方針はこうして行きたい」という対話から生まれる「文化」を築いて欲しいんですね。
相手が思わずミスをしてしまうほどの良いプレイも、日頃からどんどん自分達で鍛錬していく…そういう「文化」を日々の練習の中で築いていくことのほうが大切だということです。
もし「そうした対話など不要」と真っ向から否定する関係者がいたら、その人は固定観念の塊であることを認めていることになるので、美しい文化は絶対に産まれません。
周りの大人たちが、スポーツを通じて、どういう人間形成をしていくことが大切か、同じ目的を理解していかないと、この文化はすぐに壊れます。
したがって、バスケ経験者を中心として、試合観戦中の親御さんが、相手チームのお子さんへの「ナイスファール!」とか「ラッキーラッキー!」なんて言葉がけも、言語道断ということです。
◆実体験に学ばされる
実際のところ、娘たちのミニバスケチームも、他チームの「ナイスファール応援歌」に触発されマネを始めた時、ご指導スタッフが「相手を侮辱するような応援歌にしていて、君らは恥ずかしくないのか?それでいいの?」と問うておられました。
「試合は試し合いであって、相手との戦いではない」
ボクら親子は、地元のミニバスケ指導陣から次の事を学ばされました。
そうなんです…。
そのための少年スポーツなんです。そうした根本もできていないのは、もしかしたら我々オトナのほうかもしれません。
この「応援歌に関する違和感」については「そらジオ」でも10分程度で語っています。
ボクは今でも、全国から「ナイスファール応援歌」に替わる応援文化が出てくることを夢見ています。
「禁止」ではなく「そんな歌など不要」と思える文化を築きたい。
こうした「文化」こそ大切と思っていただければ、この記事をシェア頂くだけでも嬉しいですのですが…できることなら…一人ひとりのチカラが必要なので、まずは皆さんから築いてみませんか?
今日からできることをしてみてください。
今日からお子さんと話し合ってみてください。
今日からチーム内で話し合ってみてください。
「文化」を形成するのは、たった一日ではできません。
しかも、せっかく築いた「文化」は、たった一日で壊れたりするものです。
それでも、文化は対話から生まれます。
ぜひ共感できる仲間を作って欲しいのです。
少なくとも、草の根の笑顔創造ゲリラ応援団【躍心JAPAN】の団員達は、全国でこれを続けてくれています。
躍心JAPAN団長
河合 義徳
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