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初試合が「死合」だった
これを話すとたまに驚かれるのだけれど、僕は中学校の部活動で剣道部に入部した。
全くの素人だが、小学校の頃から剣道連盟に通っている先輩がたくさんいたし、同級生も素人が多かったので、入部を決めた。
僕の地区では(というかどの地区もそうなのかもしれないが)、6月頃に県大会に繋がる、公式試合の地区予選を行っていた。出場するのは基本的に2.3年生がメインだが、1年生のみのトーナメント戦もサブイベント的に行うため、ここが入部して初の試合になるのであった。ちなみに1年生のトーナメント戦は優勝しても県大会に行けるわけではないので、ゆるーい雰囲気の中行われる。
入部から2ヶ月経ったが、相手の動きに対する応じ技(出鼻技、抜き技、返し技)までは教えてもらえなかった。というのも、やはり剣道は他のスポーツと違って「心構え」が1番大切なことなので、その基本と、防具の付け方、基本的な面打ち程度のメニューしか僕たちには与えられなかった。それ自体は全く嫌ではなかったし、素人の同級生もたくさんいたから、それはそれで楽しかった。でもきっと僕が桜木花道だったら我慢できなかっただろう。
竹刀や防具を注文して、届いたのが5月の終わり。大会は6月の上旬だった。本当に色々ギリギリな中で、僕はデビュー戦に臨むことになった。
個人トーナメントで、僕はまさかの1試合目だった。相手はピカピカの防具を身につけていたので、すぐに「あぁ、初心者だ。よかった」と安心した。
礼をして、構えて蹲踞の姿勢を取る。
審判が「始め!」と大声を出して、試合開始だ。
「イヤーッ」「アァー!」
他のブロックで試合を始めた1年生も、僕も、教わった通りに気合いを出して竹刀を中段に構える。
相手はすぐさま面を狙って来た。しっかり竹刀で受け、鍔迫り合いの状態から体当たりで間合いを取る。
相手はすぐにまた面を狙ってきた。また竹刀で受け流す。間合いを取り直す。
.......
こいつ、面しか打てないな?
予想は当たっていた。僕の面を愚直に狙い続けてきた。この相手なら勝てる。そう確信して僕も面を狙う。
相手は竹刀で受け、間合いを取り直した。
成程。次は取る、と気合いを入れて面を狙う。
相手は竹刀で受ける。
.......
僕も面しか打てないやんけ!
そりゃそうだった。まだ先輩達は僕らに面打ちしか教えていない。防具だってきちんと着用出来るようになったのはここ1週間の話だった。
小手や胴の打ち方が分からない。これが何を意味するかというと、打突有効部位(1本と認められる部位)を狙う選択肢が3つのうち、1つしかないということである。しかも、相手も面しか狙えない。
つまるところ、これはただの面の取り合いになっていたのだ。
それだけならまだ良かった。
何せお互い初心者なので、面打ちの精度があまり良くない。当たったとしても、1本として認められないのである。しかも、スタミナがお互いに切れてきているので、どんどん弱々しい面打ちに変貌を遂げ、ただのチャンバラごっこに成り下がった。
そうこうしているうちに、隣のブロックの試合が終わったのが僕の目に映った。そして、あまりにも泥沼化したこの試合に、周りがザワつき始めた。
試合時間はとっくに過ぎ、延長戦が始まった。ここからは一本先取で勝敗が決まる。
「イヤァ」「アァー」
もう気合いが気合いじゃなくなっていた。
それを見た対戦相手の学校の顧問の先生が、審判をしている先輩に声をかけ、水分補給を取らすように行った。
僕は面を外して、時計を見た。試合開始から20分が経過していた。
僕はそれでも、デビュー戦だけはどうにか勝ちたいとまだ思えていた。アホだったと思う。
滑舌の悪い顧問にニヤニヤされながら渡されたポカリスエットは全く味がしなかった。
「胴狙えニャァ」
って言われたけど打ち方知らねえんだわ。すまんな、長くて。
休憩中に、「さっさと1本決めて終わりにしたい.......続きが始まったら即決めて終わりにしよう.......」と考えていた。しっかり飛び込んで1発に力を出し切れば、取れると僕は確信した。
「延長、始め!」
開戦と同時に相手の面に飛び込んだ。
しかし甘かった。どうやら相手も同じことを考えていたようで、見事に合い面でそのまま鍔迫り合いに持ち込んでしまった。
僕はもう帰りたかった。
誰かもう殺してくれ.......
最終的に、僕のヘロヘロの面打ちが相手の頭にポコンと当たったのがオマケの1本となり、勝利した。
試合時間はなんと35分。最後はお互い竹刀を構えることすら出来なくなり、ほぼ下段の構えをしていたと思う。
そのあと、僕は2回戦で当たったガタイのいい経験者に体当たりで審査員席の机に2回ぶっ飛ばされたりして瞬殺され、滑舌の悪い顧問に「スタミナが足りないニャア(笑)」と謎のフィードバックをされた。まじでぶっ飛ばそうかと思った。