リングワールドの力学
読んだことないけど、1970年発表のリングワールドというSF小説があるそうで、恒星を中心に建設されたリング状の巨大構造物が舞台らしい。リングの半径は、地球の公転軌道半径並にバカでかく、ゆっくりと回転することで、内部には、遠心力による疑似重力があるという設定らしい
Dyson sphereと命名規則を合わせるなら、Niven ringになるのかもしれない。また、Dyson sphereは、スタートレックでは、"ダイソンの天球"と訳されてたので、それに合わせるなら、"ニヴンの天輪"とかかもしれない("てんわ"と読むと時計の部品っぽいので、"てんりん"と読むのがよさそう)。一般的には、小説のタイトルである"ring world"で構造物の名前も指していることが多いように思う
このリングワールドは、不安定だという指摘が1971年にMITの学生からあって、それを解決する続編があるそうだ。ちょっと考えると、リングが一様な質量を持つドーナツ形状をしてた場合、重心が恒星の重心から少しでもずれると、恒星重心に近い部分は恒星から引力を受け、恒星を挟んで丁度反対側の部分は恒星から少し遠くなる分、恒星から受ける重力が若干弱い。結果として、恒星に近い方は、ますます恒星に近付いていき、恒星に衝突するというのは直感的には正しそうに思える
しかし、たとえ、物理学の専門家であっても、直感は信用できない。質量分布が一様でない場合は対称性を破ってる時点でダメそうという気もするが、あらゆるケースでダメかどうかは明らかでない
本質的に同等な問題は、マクスウェルが1859年に発表した論考"On the Stability of the Motion of Saturn's Rings"で、かなり一般的な設定で扱っている。勿論、マクスウェルは、リングワールドを考えていたわけではなく、土星の輪の組成を考えていた
論考の中で、マクスウェルは、土星の輪について、3つのモデルを作って、その力学的安定性を検討した。3つのモデルは
(1)リングは完全剛体である(Part I)
(2)リングは無数の微小固体(隕石のような)からなり、微小固体同士は互いに重力相互作用をしながら、土星の周りを定常回転している(Part IIの前半)
(3)リングは流体である(Part IIの後半)
で、マクスウェルは(2)を有望と考えたらしい。この2番目のモデルは、マクスウェルが有望としたからか、計算が面白いからか、最近でも、時々取り上げられている。なお、土星の輪の正体は、今でも、それほどはっきりしてるわけではないらしい
リングワールドと関係があるのは、(1)の剛体モデル。そこで、リングワールドは頭の片隅に置きつつ、マクスウェルの論考 Part Iの議論を追っていく
マクスウェルは、問題を平面上で考えている。3次元で考えると面倒なので妥当なところだろう。また、土星については、質点と考え、リングの方は剛体としている。
土星の重心位置で2自由度、リングの重心位置で2自由度、リングの回転で1自由度で、合計5つのパラメータがあるが、重心運動を分離すれば、3自由度になる
相対運動を記述するために、土星とリングの重心座標を$${\mathbf{x}_{S} , \mathbf{x}_{R}}$$として
$${ \mathbf{x}_{R} - \mathbf{x}_{S} = (r \cos \theta , r \sin \theta) }$$
とする。SはSaturnの頭文字であると同時にSunの頭文字でもある
リングワールドにしろ、土星の輪にしろ、その幾何学的形状は既知で、円に肉付けしたようなものになっているだろう。土星の輪は薄い中空円板だろう(知らんが)し、リングワールドはドーナツ形状なんだろう。この円の中心を$${\mathbf{x}_{C}}$$で、円の半径を$${a}$$とする。
リングの質量分布が一様でない限り、$${\mathbf{x}_{R}}$$と$${\mathbf{x}_{C}}$$は一致してないが、距離自体は一定なので、その距離を$${b}$$として
$${ \mathbf{x}_{R} - \mathbf{x}_{C} = (b \cos (\varphi+\theta) , b \sin (\varphi+\theta) ) }$$
となるように$${\varphi}$$を定義する(この定義は、リングの重心と中心が一致してる場合は使えなくなるが気にしないことにする)
リングが土星重心に作る重力ポテンシャルを$${V_{R}}$$で、土星とリングの質量を$${M_{S} , M_{R}}$$としておく。$${V_{R}}$$は後で計算するが、$${r}$$と$${\varphi}$$のみで決まる関数になる
一般に相互作用する二物体があって、質量を$${m_{a},m_{b}}$$、重心位置を$${ \mathbf{x}_{a} , \mathbf{x}_{b}}$$で、粒子$${b}$$が粒子$${a}$$に及ぼす力を$${\mathbf{F}_{ab}}$$、同様に、$${a}$$が$${b}$$に及ぼす力を$${\mathbf{F}_{ba}}$$とすると、反作用の法則から$${\mathbf{F}_{ab}=-\mathbf{F}_{ba}}$$で運動方程式は
$${m_{a} \ddot{ \mathbf{x}_{a} } = \mathbf{F}_{ab} }$$
$${m_{b} \ddot{ \mathbf{x}_{b} } = \mathbf{F}_{ba} }$$
なので
$${m_{a}m_{b}( \ddot{\mathbf{x}_{a}} - \ddot{\mathbf{x}_{b}}) = m_{b} \mathbf{F}_{ab} - m_{a} \mathbf{F}_{ba} = (m_{a} + m_{b}) \mathbf{F}_{ab} }$$
あるいは
$${ \dfrac{ m_{a} m_{b} }{m_{a} + m_{b}} (\ddot{\mathbf{x}_{a}} - \ddot{\mathbf{x}_{b}}) = \mathbf{F}_{ab} }$$
が相対位置の運動方程式になる
土星とリングの間に働く力は、$${\mathbf{x}_{R}- \mathbf{x}_{S}}$$に平行な成分と、それに直行する成分に分解できる。前者の大きさは、単に$${M_{S}\dfrac{\partial V_{R}}{\partial r} }$$だが、直交する成分は$${r}$$との積を取るとトルクになり、その大きさは、$${ M_{S} \dfrac{\partial V_{R}}{\partial \varphi} }$$に等しい
以上を踏まえると、重心運動を除いた自由度に対して、以下の3本の運動方程式が得られる(マクスウェルの重力ポテンシャルは現代と符号が逆っぽいので注意)
(A) $${ \dfrac{M_{R} M_{S}}{M_{R} + M_{S}} (\ddot{r} - r \dot{\theta}^2) = -M_{S} \dfrac{\partial V_{R}}{\partial r} }$$
(B) $${ \dfrac{M_{R} M_{S}}{M_{R} + M_{S}} (2 \dot{r} \dot{\theta} + r\ddot{\theta}) = M_{S} \dfrac{1}{r} \dfrac{\partial V_{R}}{\partial \varphi} }$$
(C) $${ I_{R} ( \ddot{\theta} + \ddot{\varphi}) = -M_{S} \dfrac{\partial V_{R}}{\partial \varphi} }$$
$${I_{R}}$$はリングの慣性モーメント。マクスウェルは断面回転半径(radius of gyration)$${k}$$を使って、$${I_{R} = M_{R} k^2}$$と書いている
マクスウェルは、妥当と思われる特殊解に対して線形安定性解析を行う。具体的には、$${r}$$と$${\varphi}$$が一定となる解が存在する条件を検討する。$${r=r_{c} , \varphi = \varphi_{c} }$$とする
その場合、まず、$${\dot{\theta}^2}$$が定数であることが分かり、$${\theta = \omega t}$$とする。すると$${\ddot{\theta}=0}$$なので、方程式(C)から、$${\dfrac{\partial V_{R}}{\partial \varphi}(r_c,\varphi_c) = 0}$$
$${\varphi}$$は角度なので、どっかで一つは最大値か最小値を持つだろう。方程式(B)と(C)はこれで問題がないが、方程式(A)は
$${ \dfrac{M_R}{M_R+M_S} r_c \omega^2 = \dfrac{\partial V_R}{\partial r} }$$
という条件になる。どのような$${r_c,\omega}$$に対して、この条件が成り立つかは、$${V_R}$$次第で、何とも言えない
そこで、$${V_{R}}$$を計算する。$${V_{R}}$$はリングの質量分布で決まるが、断面方向の変動を考慮しなければ、リングの質量分布は円周上の関数と見なすことができ、フーリエ級数展開できる
リング中心Cからリング重心R方向の直線を引いてリング円周と交差する点をBとすると、リング質量分布は、この点Bを起点とした角度$${\eta}$$で記述することができる。Bの座標自体は$${ \mathbf{x}_{C} + (a \cos(\theta+\varphi) , a \sin(\theta+\varphi))}$$
その質量分布が、単位角度あたり
$${ \mu(\eta) = \dfrac{M_{R}}{2 \pi} ( 1 + f_{1} \cos \eta + g_{1} \sin \eta + f_{2} \cos(2\eta) + g_{2} \sin(2\eta) + \cdots ) }$$
というように書けるとする。質量分布なので、この関数は全ての点で正の値を取り、係数には制限がつくが、そのことは一旦考えない
簡単に計算できるように
$${ b = \dfrac{1}{M_{R}} \displaystyle \int_{0}^{2 \pi} \mu(\eta) (a \cos(\eta)) d\eta = \dfrac{a f_{1}}{2} }$$
また、リング重心Rはリング中心Cとリング上の固定点Pを結んだ線上にあるという条件から、$${g_{1}=0}$$でないといけない
リング中心周りの慣性モーメントは$${M_{R} a^2}$$だから、平行軸の定理を使うと、リング重心周りの慣性モーメント$${I_{R}}$$は
$${I_{R} = M_{R}(a^2 - b^2) }$$
と計算でき、
$${ k^2 = a^2 - b^2 }$$
$${V_{R}}$$は式で書けば、$${ \mathcal{R}(\eta) }$$を回転行列として
$${ V_{R} = -G \displaystyle \int_{0}^{2 \pi} \dfrac{ \mu(\eta) d\eta}{|\mathbf{x}_{S} - \left(\mathcal{R}(\eta)(\mathbf{x}_B-\mathbf{x}_C)+\mathbf{x}_C \right)|} }$$
ここで
$${ \mathbf{x}_{S} - \mathbf{x}_{C} = (b \cos(\theta+\varphi) - r\cos(\theta) , b \sin(\theta+\varphi) - r \sin(\theta) ) }$$
$${ \mathbf{x}_{B} - \mathbf{x}_{C} = (a \cos(\theta+\varphi) , a \sin(\theta +\varphi)) }$$
なので、$${ |\mathbf{x}_{S} - \left(\mathcal{R}(\eta)(\mathbf{x}_B-\mathbf{x}_C)+\mathbf{x}C \right)| }$$は座標を角度$${-\theta}$$だけ回転しても不変。従って、$${V_{R}}$$は$${\theta}$$に依存しないことが、きちんと分かる
$${V_{R}}$$を厳密に計算するのはだるいが、マクスウェルは一旦
$${\mathbf{x}_{S} - \mathbf{x}_{C} = (r' \cos(\psi+\varphi+\theta) , r' \sin(\psi+\varphi+\theta) ) }$$
となる変数$${r',\psi}$$を導入して、土星重心がリング中心の近くにあるなら、$${r' \ll a}$$だから、いつものように、
$${ \dfrac{1}{|\mathbf{x}_{S} - \left(\mathcal{R}(\eta)(\mathbf{x}_B-\mathbf{x}_C)+\mathbf{x}_C \right)|} = \dfrac{1}{\sqrt{a^2+r'^2-2ar' \cos(\psi-\eta)}} =\dfrac{1}{a} \left(1 + \dfrac{r'}{a} \cos(\psi-\eta) + \dfrac{1}{2} \left( \dfrac{r'}{a} \right)^2 (3\cos^2(\psi-\eta)+1) + \cdots \right) }$$
と展開したように思われる。これを$${V_R}$$の式に入れて積分すると
$${ V_{R} = \dfrac{-G M_{R}}{a} \left( 1+ \dfrac{r'}{a} \dfrac{f_1}{2}\cos \psi + \left( \dfrac{r'}{a} \right)^2 (\dfrac{1}{4} + \dfrac{3}{8}f_2 \cos 2\psi + \dfrac{3}{8} g_2 \sin 2\psi + \cdots ) \right) }$$
と計算される。
$${ \mathbf{x}_{S} - \mathbf{x}_{C} }$$の二式を比較して$${-\theta}$$回転すると
$${r' \cos (\psi + \varphi) = b \cos \varphi -r }$$
$${r' \sin(\psi+\varphi) = b \sin \varphi }$$
で、更に$${-\varphi}$$回転すると
$${r' \cos \psi = b - r \cos(\varphi) }$$
$${r' \sin \psi = r \sin(\varphi)}$$
と解ける。これを使って、$${V_{R}}$$から$${r'}$$と$${\psi}$$を消去して、$${r}$$と$${\varphi}$$の関数として書くことができる
やや長い式になるが、全部書くと
$$
V_{R} = -\dfrac{G M_{R}}{a} \left( C + \dfrac{r^2}{4a^2} - \cos \varphi \left( \dfrac{f_1 r}{2a} + \dfrac{br}{2 a^2} + \dfrac{3f_2 br}{4 a^2}\right) + \\ \sin \varphi \left(\dfrac{3g_2 br}{4a^2}\right) + \cos 2\varphi\left( \dfrac{3 f_2 r^2}{8 a^2} \right) - \sin 2\varphi \left( \dfrac{3 g_2 r^2}{8 a^2} \right) +\cdots \right)
$$
$${ C = 1 + \dfrac{f_1}{2}\dfrac{b}{a} + \dfrac{1}{4} (b/a)^2 + \dfrac{3 f_2}{8} (b/a)^2 }$$
という形になる。$${\varphi}$$は円周上の座標なので、フーリエ級数の形になる
マクスウェルも$${g_2 \neq 0}$$のケースは、ほぼ検討してないので、$${g_2=0}$$とする。更に言うなら、$${\sin(n \eta)}$$の係数$${g_n}$$も0であるとする。この時、リングの質量分布は、直線CRに関して鏡映対称となる。
上で考えた特殊解では$${\dfrac{\partial V_{R} }{\partial \varphi} = 0}$$を満たす必要があったが、CRについて対称な質量分布では、この条件は、単に$${\sin \varphi = 0}$$と簡単になる。これは、リング中心C、リング重心R、土星重心Sが一直線上にあるということで、直感的にも理解できる。
というわけで、$${\varphi_{c} = 0}$$とする。マクスウェルは$${r_c=b}$$となる特殊解を考えているらしい。この場合、土星重心はリング中心と一致する。
あと$${\omega}$$も決める必要があるが、
$${ \dfrac{M_R}{M_R+M_S} r_c \omega^2 = \dfrac{\partial V_R}{\partial r} }$$
を満たすべきという話だったので、$${\dfrac{\partial V_R}{\partial r}}$$を計算すればいい。$${r=r_c=b , \varphi=\varphi_c=0}$$では
$${\dfrac{\partial V_R}{\partial r} = \dfrac{G f_1 M_R}{2 a^2}}$$
だから、
$${\omega^2 = \dfrac{G(M_R+M_S)}{a^3} }$$
を満たせば、$${r=b,\theta=\omega t ,\varphi=0}$$という特殊解が存在する。この特殊解では、リングワールドはリング中心周りに角速度$${\omega}$$で回転する
仮に、リングワールドの重さ$${M_R}$$が$${M_S}$$より遥かに小さいとして、$${M_S}$$は太陽質量、$${a}$$が地球と太陽の距離に等しいとする(リングワールドの設定ではそうらしい)と
$${\omega \approx 2.0 \times 10^{-7} \space \mathrm{s}^{-1}}$$
で、当たり前だが、365日で一回転する。リングワールドの中では、遠心力による擬似重力があるという設定らしいが、地球並みの重力を得るには、この回転速度は遅すぎる
そのような条件を満たすには、$${M_R}$$は$${M_S}$$より遥かに重くなければならないだろう。どっから、そんな建材を持ってくるのは謎である。太陽系にリングワールドを作る場合、地球を丸ごと材料にしても、全く足りない。この尤もらしい特殊解でリングワールドを実現するのは、困難に思える
しかし、$${r_c \neq b}$$であっても構わない。その場合
$${ r_c \omega^2 = \dfrac{G f_1(M_R+M_S)}{2 a^2} }$$
だから、($${f_1 \neq 0}$$である限りは)$${r_c}$$が小さくなれば、$${\omega}$$はいくらでも大きくなる。$${r}$$はリング重心と恒星重心の距離なので、この2つが近接すれば角速度は大きく出来る。
最後に、リングワールドの線形安定性を評価する
まず、線形安定性解析で必要になるので、$${r=r_{c},\varphi=\varphi_c}$$での$${V_{R}}$$のHessianを計算する。各成分を$${C_L,C_M,C_N}$$と名付けて
$${ C_L = \dfrac{\partial^2 V_{R}}{\partial r^2} = -\dfrac{GM_R}{2a^3}(1+3 f_2) }$$
$${ C_M = \dfrac{\partial^2 V_{R}}{\partial r \partial \varphi} = 0}$$
$${ C_N = \dfrac{\partial^2 V_{R}}{\partial \varphi^2} = -\dfrac{G M_R}{a} \left( \dfrac{3 f_1 r_c}{4 a} + \dfrac{3 f_1 f_2 r_c}{8 a} - \dfrac{3 f_2 r_c^2}{a^2} \right) }$$
$${r = r_c + \epsilon r_m}$$
$${\varphi = \varphi_c + \epsilon \varphi_m}$$
$${\theta = \omega t + \epsilon \theta_m}$$
として、方程式(A)(B)(C)に代入して$${\epsilon}$$の一次のオーダーの項だけ取り出せばいい。$${r_m,\varphi_m,\theta_m}$$は時間に依存する関数。
(A') $${ M_R (\ddot{r_m} - \omega^2 r_{m} -2 r_c \omega \dot{\theta_m}) + (M_R+M_S)(C_L r_m + C_M \varphi_m) =0}$$
(B') $${ M_R(2 r_c \omega \dot{r_m} + r_c^2 \ddot{\theta_m}) - (M_R+M_S)(C_M r_m + C_N \varphi_m) = 0}$$
(C') $${ M_{R} k^2( \ddot{\theta_m} + \ddot{\varphi_m} ) + M_S(C_M r_m + C_N \varphi_m) = 0 }$$
この3本の方程式は、線形常微分方程式で
$${ (\Lambda_0 + \Lambda_1 \dfrac{d}{dt} + \Lambda_2 \dfrac{d^2}{dt^2}) \left(\begin{matrix} r_m \ \varphi_m \ \theta_m \end{matrix} \right) = 0 }$$
という形になっている。$${\Lambda_0,\Lambda_1,\Lambda_2}$$は3x3の定数行列
これが解を持つための条件は
$${ \mathrm{det}( \Lambda_0 + \Lambda_{1} x + \Lambda_{2} x^2) = 0 }$$
で、解$${x=\lambda}$$があれば、$${(r_m,\varphi_m,\theta_m) = e^{\lambda t}(C_1,C_2,C_3)}$$という形の解がある。$${C_1,C_2,C_3}$$は定数
$${ \mathrm{Re}(\lambda) \gt 0}$$となる$${\lambda}$$が存在すれば、解は線形安定でないということになる。
$${ \mathrm{det}( \Lambda_0 + \Lambda_{1} x + \Lambda_{2} x^2) }$$は$${M_R x^2}$$と$${K_0 + K_2 x^2+K_4 x^4}$$という形の4次多項式の積になる
マクスウェルが議論している通り、線形安定である条件は、$${K_0,K_2,K_4}$$が同符号かつ、$${K_2^2-4 K_0 K_4 \gt 0 }$$
$${K_4 = (M_R k r_c)^2}$$
なので、$${K_4}$$は正。$${K_0,K_2}$$の式は複雑なので省略。現代では手で計算せずとも計算機がやってくれる
$${K_0,K_2}$$の評価だけ書いておく。以下、$${f_2=0}$$として
$${r_c \omega^2 = \dfrac{G f_1(M_R+M_S)}{2 a^2} }$$
$${k^2 = a^2 -b^2 = a^2(1- f_1^2/4) }$$
で$${\omega,k}$$を消去すると、
$${K_2 = \dfrac{G M_R^2 r_c}{16 a^2} K_2'}$$
だが、
$${\displaystyle \lim_{r_c \to 0} K_2' = 3 a^2 f_1 (M_R+M_S) (4 - f_1^2) }$$
となる。ところで、$${\mu(\eta) \propto (1+ f_1 \cos(\eta))}$$の時、常に正であるためには$${-1 \lt f_1 \lt +1}$$だから、$${f_1 \gt 0}$$なら、$${K_2'}$$は$${r_c}$$が十分小さければ正。
$${K_0}$$も同様に
$${K_0 = \dfrac{3 G M_R^2 f_1 r_c}{32 a^5} K_0' }$$
$${ \displaystyle \lim_{r_c \to 0} K_0' = G a^2(M_R+M_S)^2(4 -f_1^2) }$$
だから、$${f_1 \gt 0}$$なら、十分小さい$${r_c}$$に対しては、$${K_0}$$も正。
$${r_c}$$は小さくしないと遠心力が稼げないとはいえ、あまりにも疑似重力が大きくてもまずい。
$${\displaystyle \lim_{M_R \to 0} K_0' = G M_S^2 ( 4 r_c^2 + 4 a^2 -(a f_1)^2 ) }$$
だから、$${M_R}$$が小さい時には、$${r_c}$$が大きくても大丈夫そう。$${M_R}$$はリングの質量なので、建材をどこから持ってくるか考えると、恒星質量$${M_S}$$に比べて非常に小さいという
$${\displaystyle \lim_{M_R \to 0} K_{2}'}$$はもう少し複雑だが、$${r_c \lt b= \dfrac{a f_1}{2}}$$という条件を考慮してやると、$${M_R}$$が小さい時には、やはり大丈夫そう(省略)。
$${K_2^2 - 4K_0 K_4}$$も同じ方法で評価すると
$${\displaystyle \lim_{r_c \to 0 } \left( \dfrac{256 a^4}{G^2 M_R^4 r_c^2} \right) (K_2^2 - 4K_0K_4) = -15 a^4 f_1^2 (M_R+M_S)^2(4-f_1^2)^2 \lt 0}$$
で、小さい$${r_c}$$に対しては線形安定性が成立しないと分かる。かなり限定的な条件ではあるが、リングワールドが安定になるのは大変そうだと分かる
しかし、不安定だとダメかというと、工学の場合は、不安定なら制御すればいいという話になる。倒立振り子なんかも、物理としては不安定性しかないけど、工学的にはどう制御するかという方法が色々ありうる。そのへんが、工学が物理より深遠たる所以と言える
それはともかく、マクスウェルのモデルは質点と剛体の相互作用を扱うという教科書でも見かけないタイプの問題で面白いと思うけど、特に使い道もないせいか、紹介されてるのを見かけない。
いつか使い道が見つかるかもしれないので概略を追ってみた
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