続くかもわからないある導入



 振り返った君が手を振る夏のはじまりを、今でも覚えている。

 君は夏になると、居なくなる。それは昔からだった。なんでも君の母さんは、遠くからここへやってきたらしいから。暑い夏の少しの間は、そっちへ行かなくてはならないんだと聞いた。君も含めて、家族全員で。

「まあくん、いってくるね!」

 エンジン音を響かせて動き出す準備ができている車のほうへ、君は紺色のワンピースを翻して駆けていく。コンクリに覆われていない田舎道は、君の足が跳ね上がるのに合わせて砂利が擦れる音がした。
 車に乗る直前、君はもう一度僕のほうを見て、手を振る。僕は振り返す。スライドドアが閉まった。タイヤの回る音。少しの砂煙を残して、君たち家族を乗せた銀色のワゴン車は、あっという間に遠い景色の一部になった。

「いってらっしゃい、まあちゃん」

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