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創作料理店キャッシュバック
日付が変わって1時30分だった。
寝てしまったのか……。そこはまだ店の中のようだった。
約束の時間に2時間以上遅れていた。スマホを開いてみたが、着信はなかった。それもおかしな話だ。
「混ぜずに食べてください」
店の人がそう言っていた。珍しい料理だった。記憶はそこで途切れていた。とにかく店を出よう。僕は出口へ向かった。
「89円になります」
耳を疑うような値段だった。客は誰もいないのに、大勢の従業員が残っている。
「間違ってませんか?」
「膝にハンマーを落としてしまいましたので」
慰謝料を引いてその料金になると言った。それが僕が眠っていたことと関係あるのか。僕は軽くパニックに陥っていた。
(折れているかも)
「どういうこと? ちゃんと紙に書いて説明して!」
「それはちょっと……」
店員は書くことを拒否した。
「じゃあじゃあ」
僕はスマホを取り出してマイクを起動した。紙が駄目なら、音声にして残してもらおう。
話によるとハンマーは軽いアクシデントで、眠ったこととは無関係であるらしい。大事には至ってないが、値引きは心の問題だと言う。
店を出たが怖くて電話することができなかった。
ゆっくり歩いている内に夜明けが近づいてきた。閉店したコンビニの駐車場で練習に励んでいるのは若手漫才師だった。階段を下りて地下構内に入った。改札を探す内に道に迷って階段を上がると、事情を聞こうとする人々が集まっていた。
「でね」
89円のくだりで口がパサパサとして大きな声が出なかった。
(大事なところだったのに)
家に帰ると罪悪感が復活してきた。
やはり、着信はなかった。
スマホを持ったまま、なかなか決断がつかない。
昨夜のこと、ちゃんと聞いてもらえるだろうか……。