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プレゼントの前に

やがてくるクリスマスに備えて
まだ足りないものがありました。
というのもプレゼントを受け取るには、
何はなくてもそれを入れる器が必要で、
手袋なんかではないそれはもっと、
下に位置するべきもので、
子供にとってはなくてはならないものでした。

約束もしていなかったけれど、
魔法使いはやってきて、
扉を開けて背中の荷を下ろすと、
中から何やら取り出して、
「手を出しなさい」
仕方なくそうすると、
「これは一体何ですか?」

やっと手にしたそれは、
全く想像していたものとは違って、
取るに足らないような、
何の得にもならないような、
てんで役にも立たないような、
しかめっ面をすることがふさわしいような、
こそばゆいようなつまらないものでした。

「やいやい! 何だよ!」と
魔法使いに訴えると、
「と言うと思っていたよ」
なぜかお見通しという雰囲気で、
「テストしただけさ」
静かにせよと言って、
今度は別の物を出してきたのでした。

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは長いのか短いのか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはメンズかレディースか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは自分用かプレゼント用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは夏用か冬用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは雨用か晴れ用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは薄手か厚手か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは子供用か大人用か?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはインドアかアウトドアか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはビジネスかカジュアルか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずはブラックかレッドかグレーか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選ばなければなりません。
「まずは明るいグレーか暗いグレーか中間のグレーか?」
と言って魔法使いは選択を迫り、
なんとなく答えると
手を叩いて1つの可能性が、
消滅していくけれど、
これで終わりというわけにはいかなくて、

山ほどある中から選んで選んで選んで、
まだか、まだか、まだか……
という時間がずっと続く内に、
泣き出しそうな回答者を前に、
「テストしただけさ」
静かにもう一度魔法使いは言って、
「これで最後だよ」

山を登り切ったところに待っているもの、
「まずは今か、または今度か?」
と言って魔法使いは選択を迫ります。
長い長い選択の果てにようやくそれを
手にする機会が訪れて、
しぼり出すように答えるのでした。
「今度」  魔法使いは荷物をまとめて帰って行きました。


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